アマゾン命名の「気候誓約アリーナ」に見た、パーパス・ドリブンな新スポーツ経済圏

(c) Amazon.com


アマゾンの本気度が伺えるネーミング



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新アリーナでの象徴的な取り組みの一つが、命名権を取得したアマゾンが同社の掲げる気候変動へのコミットメントである「Climate Pledge(気候誓約)」を施設名に付けたことだ。日本で例えるならパナソニックが吹田のサッカー場に「水道哲学スタジアム」と名付けるようなものといったところか。

確かに、今やアマゾンを知らぬ者は少ないだろうが、Amazon Prime Arenaなどにもできたはずだ。3億~4億ドルとも言われる命名権料の対価として、社名だけでなく製品やサービス名すら付けようとしなかったことにその本気度が伺える。

脱炭素化への徹底した取り組み


ご存じの方も少なくないと思うが、「Climate Pledge(気候誓約)」とは、アマゾンが2019年に署名した「パリ協定で定められた目標より10年早い2040年までにCO2の排出量を実質ゼロにする」という公約のことだ。それを施設名にするだけあって、Climate Pledge Arenaでは抜本的な環境保全対策が志向されている。柱となるのは、(1) カーボンゼロ、(2) 廃棄物ゼロ、(3) 使い捨てプラスチックゼロ、(4) 節水の4つだ。

その中でも施設のレゾンデートル(存在価値)にもなっている「カーボンゼロ」に向けた取り組みは徹底的だ。施設内の調理、空調、機械系統から製氷車に至るまでの全ての設備は電化され、炭素を排出するガスやガソリンは一切使わない。そして電気はアリーナや駐車場、練習施設屋上に設置されたソーラーパネルから発電供給し、不足分は近隣のソーラーファームから100%再生可能エネルギーを調達している。これで施設運営における炭素排出量(operational emission)をゼロにしている。

また、施設建設では調達する資材などに既に内包炭素(embodied emission=素材を製作する時点で既に排出された炭素量)が含まれるが、これを最小化するために、旧アリーナにあった2万トンを超える巨大な屋根やガラス壁を新施設に再利用している。残りの内包炭素についても全てを可視化した上でカーボンクレジットを購入してオフセットしている。


環境意識の高いパートナーが集まるプラットフォームへ


全アリーナ利用者(来場者、チーム、アーティストなど)の行動を追跡し、削減しきれないカーボンをオフセットすることも表明している。これは裏を返せば環境保全への意識の低いパートナーとは仕事をしないことを意味する。こうした徹底的な取り組みもあり、Climate Pledge ArenaはInternational Living Future Instituteからエンタメ施設初の「Zero Carbon Certification(ゼロカーボン認証)」を取得している。

そして、これは意図して行ったわけではなく結果的にそうなったと言っていたが、声をかける前から「仲間に加えてほしい」という問い合わせが企業などから殺到したという。Climate Pledge Arenaは、図らずも脱炭素ビジネスの旗頭的存在となり、気候変動の解決策を募るプラットフォームとして機能している。この施設では、パートナー企業は商売相手というよりはむしろ、共通の目標達成を目指す同志に近い存在なのだ。


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文=鈴木友也 編集=宇藤智子

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