「原発無視」というCOP26の欺瞞

国際原子力機関(IAEA)のラファエル・マリアーノ・グロッシー事務局長(Photo by Ian Forsyth/Getty Images)


一方で、会期中にはひどい一幕もあった。11日、2011年の福島第一原発事故をめぐり国際原子力機関(IAEA)のラファエル・マリアーノ・グロッシー事務局長が「放射能による死者は一人もいなかった」と発言したところ、失笑を買ったのだ。

そうした反応こそ唾棄すべきものだし、またこれだからCOP26で示された大いなる希望が実現するとも思えない。COP26は、自分たちの気に入った科学しか受けつけない、鼻持ちならない連中によって運営されている。彼らは気候変動の専門家の声ですら、都合が悪ければ聞こうとしないのだ。

世界的な気候科学者であるジェームズ・ハンセン、ケン・カルデイラ、ケリー・エマニュエル、トム・ウィグリーは以前、COPの指導部と気候変動に関する政府間パネル(IPCC)に宛てた公開書簡のなかで、こう強調していた。

「原発の果たす大きな役割を抜きにしては、気候の安定化に向けた確かな道筋を描けない。(中略)今世紀の気候システムに対する危険な人為的干渉を避けるには、原子力を大幅に拡大することが不可欠である。(中略)わたしたちの計算では、原子力がなければ世界が必要とする電力を供給できない」

真の科学者によるまっとうな研究では、2011年の福島第一原発事故で放出された放射性物質が、どこか一箇所で健康に影響を与えるほどの濃度で集中している場所はないということが何度も示されている。国連も、福島での原発事故に関して「一般の人々や作業員の大多数に将来みられるどのような健康への影響も、それを被ばくに帰することはおそらくできないだろう」との認識を明らかにしている。

福島の原発事故で作業にあたったあと、肺がんで亡くなった男性もいるが、がんを引き起こす量の被ばくをこの事故対応だけでしたわけではない。事故後の4年間で約74ミリシーベルトという男性の被ばく量は、地球上の多くの場所の自然放射線量よりも少なく、それだけでは何らかの健康への影響を起こすものではない。また、被ばくによる肺がんの潜伏期は5年を超える。

反原発派の人たちは、原発事故による死者を見つけたかった。だが、この事故による健康への影響は依然として、ストレスやうつ、不安からくるものだけである。

これは、たんに彼らが福島の原発を死の化身と思い込んでいるという話ではない。多くの環境活動家が大義実現のために抱いている決意が、いかに浅はかなものかを物語るものだ。

もし彼らが、このような、地球全体の存亡にかかわる脅威を解決しようと本気で思っているのなら、きちんと調べ、気候科学者の話に耳を傾け、原子力科学者に助言を求め、あらゆる手立てを通じて、この迫りくる脅威に最もうまく対処する方策を探ろうとするだろう。

だが、実際はというと、風力と太陽光、電池があれば十分対応できるという主張に凝り固まってしまっている。

耳を澄ませば、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の高笑いが聞こえてくるかもしれない。

編集=江戸伸禎

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