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最先端の経済誌「Forbes JAPAN」の記事紹介

社長就任を控えた半年前。アクセンチュア副社長だった江川昌史は、人材紹介会社から告げられた一言に衝撃を受けた。

「『アクセンチュアは働き方が激しすぎて、人を紹介できない』と言われましてね。ショックでしたよ。このままでは先がない。社長を継ぐのはリスクが高すぎるなと」

それから6年。同社の従業員数は3倍に増え、売り上げは当時のグループ内の上位国をしのぐ規模に。リスクを乗り越えて急成長だ。

背景にあるのはDXだ。アクセンチュアはもともとシステムと戦略に強いコンサルティング会社だった。しかし、15年に社長就任した江川がいち早くデジタル領域の強化を打ち出して、DXの波をつかまえた。

DXという言葉が浸透していなかった時期に、潮流を読んでデジタルへの注力を決めたのは、まさしく英断だ。DXの要は人材の多様性。これを担保するには、働き方の見直しが必須だった。そして、この決断の背中を押したのが冒頭の人材紹介会社の一言だ。ただ、時短を呼びかけるだけでは、「現場をわかっていない社長と思われて終わり」。社員に腹落ちさせるには、働き方改革がビジネスの成果につながることを示す必要があった。そこで、もともと描いていたデジタル戦略と有機的に結びつけた。

「デジタル改革の本質はダイバーシティです。従来のコンサルやSIは左脳的。一方、デジタルのマーケティングやビジュアルは右脳的な感覚が生きる領域で、理路整然と動く男性中心の集団では対応しきれません。芸術系の人や女性、外国人など、それまでと違う感覚をもった人に活躍してもらわないといけない」

働き方改革でダイバーシティを進めることがデジタル領域で戦う武器になり、事業の拡大に貢献する──。

このロジックは当初、理解されなかった。なにしろ江川自身が、毎晩遅くまで働く典型的な男性社員だった。役員の2割は「江川が変わるのだから、よほどの危機」と理解してくれたが、8割は「自分がやってきたことを否定するのか」と笑われた。

しかし、そこは強い信念がある。反対する事業部には「需要が急進するデジタルの売り上げがつかなくなるぞ」と説き伏せた。また、社長就任直前にはファーストリテイリングとDX推進の合弁会社設立を発表。その後もさまざまな業界のDX事業を支援。面従腹背だった役員も潮流の変化を察知。働き方改革とデジタルシフトの両輪が回り始めた。

文=村上 敬 写真=苅部太郎

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