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2021.12.13

“プロのDX推進役”が三菱マテリアルで描くデータ駆動型ビジネスへの青写真とは〜AI ジャイアンツ Vol.6

三菱マテリアル CDO(最高デジタル責任者)⻲山満

経営の中枢にAIを取り入れる。PwCコンサルティングが推進する「AI経営」が日本の企業にも浸透し始めている。同ファームマネージングディレクターの馬渕邦美は、キーパーソンとなる“AIジャイアンツ”がその成否の鍵を握っているという。いま、日本の企業で、誰がどのような変革を起こしているのか。日本のデジタル大国化を予見させる変革の現場を紹介する連載企画。第6弾は、創業150周年を迎えた総合素材メーカー、三菱マテリアルの取り組みを紹介する。同社初のCDO(最高デジタル責任者)に招聘(しょうへい)された亀山は、“巨艦”のDXをどのように達成していくのだろうかーー。


2021年5月に創業150周年を迎えた国内トップクラスの総合素材メーカー、三菱マテリアル。銅加工、電子材料、切削工具、銅をはじめとする非鉄金属、セメント、家電などのリサイクル、再生可能エネルギーなど、多角的に事業を展開している。他方で、新型コロナウイルス感染症の影響による 中期経営計画の一部見直しなど、課題も山積していた。

抜本的な改革のための取り組みのひとつが、「MMDX(三菱マテリアル デジタル・ビジネストランスフォーメーション)」と銘打ったデジタル化戦略。20年度から25年度までに400億円超を投資するビッグプロジェクトであり、推進を担うのは、日産自動車や資生堂のIT戦略を統括してきた亀山満だ。三菱マテリアルではじめて設置されたCDO(最高デジタル責任者)に招聘された亀山は、どのような手立てで“巨艦”をトランスフォームしようとしているのか。改革の軌跡を追った。

経営トップの強烈な危機感が改革の端緒


三菱マテリアルが展開する事業の幅は非常に広く、かつそれぞれが存在感を放っている。伸銅品の販売シェアが国内トップなのは広く知られるところだが、自動車や航空機などの部品加工に欠かせない超硬工具の売上高や、家電リサイクル処理量も国内トップ。付加価値の高い製品にも定評があり、半導体素子の動作に悪影響を与えるアルファ線放出量を格段に低減させて誤作動を防ぐ「低アルファ線はんだ」の販売シェアは世界トップとなっている。

亀山満は、こうした事業の多角性と「人と社会と地球のために」という企業理念に惹かれてCDOの招聘を受諾したと明かす。

「世界が持続可能な社会を求めているなかで、三菱マテリアルの果たすべき役割は非常に大きいと感じました。さまざまな素材でものづくりを支えるだけでなく、地熱発電・水力発電などの再生可能エネルギー事業や、高度なリサイクル事業によって脱炭素・循環型社会への貢献もできます。また、日本は世界有数の森林大国ですが、当社は全国に1.4万ヘクタールの森林を保有する国内有数の大規模森林所有者でもあります。こういう企業が本気で変わろうとしている瞬間に立ち会いたいと思いました」

「本気で変わろうとしている」、その表れのひとつが、経営陣のデジタル化に対する考え方だ。「単純なデジタル化ではなく、ビジネストランスフォーメーションにつなげていこうという決意があった」と亀山は振り返る。

「それまでも、デジタル施策を怠っていたわけではありません。むしろ、IoTの導入などを積極的に進めていましたが、どうしても『点』の施策にとどまっていたのです。そのことを経営陣が理解し、『本当の意味でのデジタル変革(DX)ができていない。事業ポートフォリオの最適化や、長い歴史の中で硬直化している人事制度の見直しも含め、一緒に変えていってくれないか』と声をかけてくれたのです」

とりわけトップの危機感は非常に強い。

「『150年の歴史があったからといって、次の100年があるとは限らない。10年後すらないかもしれない。いま変わらなくてはならない』と社長の小野直樹はよく言っています。これほどの強い危機感が、デジタル化戦略に思い切って力を注ぐ決断を後押ししたと言えるでしょう」


⻲山 満 三菱マテリアル CDO(最高デジタル責任者)


地道な「現状把握」で道を開く


そこまでの強い危機感があったからこそ、三菱マテリアルは亀山に白羽の矢を立てたのだろう。実際、亀山が積み上げてきた実績は、その期待の大きさにふさわしい。日産自動車時代は、ITを活用した全社業務改革を担当したのち、車の電動化、モバイルテクノロジーの発展を予期して、2000年頃には“車へのIT適用プロジェクト”のグローバルリーダーを務めた。その後、情報システム本部長(CIO:最高情報責任者)として従業員数7万人の中国との合弁企業の成長戦略の立案・実行にも携わっている。資生堂へ転職後は、CITO(チーフ・インフォメーション・テクノロジー・オフィサー)としてグローバルIT戦略を統括し、店頭のデジタル化も推進してきた。

まさに「豪腕」をイメージさせる実績だが、三菱マテリアルでの取り組みを聞くと、そのアプローチは意外なほど地道なものだった。まず実施したのは徹底した「現状把握」。それも、既存のデータをただ眺めたわけではない。5つある社内カンパニーの各部門に加え、取引先や顧客企業などステークホルダーにインタビューを実施していった。その数はなんと数百名以上。カンパニーのキーパーソンやコンサルタント企業による緻密な聞き取りで、競合他社との比較の視点を含めて「自社の強み・弱み」や「品揃え」、「アフターサービスの評価」まであぶり出していったのである。現状の可視化はビジネスの定石だが、亀山の狙いは、それを経営陣全員で共有することにあったと明かす。

「トップがいくら危機感を強めても、単独で組織全体へ波及させるのは困難です。特に、三菱マテリアルはカンパニー制ですから、組織全体を変革するには、それぞれを担当する役員全員が本気の危機感をもたなくてはなりません。だからこそ、『競合他社との比較』という視点も踏まえたリアルな現状を理解する必要があると考えました」

特筆すべきは、これらの可視化された“データ”の活用法にある。経営陣とのミーティング時間を週1回確保し、このデータをもとに各部門のデジタル化戦略について議論を深めていったのだ。現在地を可視化したうえで、デジタル戦略と絡めて討議する――。こうすることで、各役員がDX推進を“自分事”化し、カンパニーや部門といった縦軸のみに偏らず、社内全体を横串で通して課題を共有できるようになっていった。

「DX推進本部を設置してはいますが、実際にDXを進めるのは各カンパニー、各コーポレート部門です。全役員で集中的にデジタル戦略を検討したDX役員合宿で、“解決すべき21のテーマ”を定めました。それぞれ担当役員が責任者となっています」

この“21のテーマ”も、必要な要素をかき集めて枠組みとして当てはめたものではない。十分な討議を重ね、担当役員が腹落ちした内容だからこそ、組織内への浸透も早い。これらの劇的な変化を象徴しているのが、あるカンパニートップを務める役員の発言だ。

「デジタル化はお客様との距離を縮めるとようやく理解できた。単にデジタルマーケティングではなく、製造現場を含めたすべてのプロセスを見直すことが必要だとわかった」

この発言が経営陣全員の心に染み渡ったのは想像に難くない。以降、社内全体の意識が大きく変わったのは、むしろ必然だったと言える。

「人材」と「データ」が持続可能性の土台


地道ながら、着実な戦略で組織全体の意識変革を推進している亀山は、DX人材の育成にも着手。まずは各部署のキーパーソンを期間限定でDX推進本部に異動させ、DXテーマを実行しながらデジタルリテラシーとデータ活用術を涵養している。

「キーパーソンを選んだのは、それぞれの持ち場に戻ってDXを推進してもらうためです。そうやってDXの基盤を固めることが重要だと思っています」(亀山)

これと同様の発想で開始したユニークな取り組みが、「リバースメンタリング制度」である。通常のメンタリング制度(メンター制度)は、先輩社員が若手社員をサポートするものだが、「リバースメンタリング制度」はその逆で、若手社員が月に1~2回のペースで経営層の先生役を務める。経営層はデジタル知見を深められるとともに現場の“空気”に触れることができ、若手社員は経営に関して率直に意見を言い、理解を深めることができる。

「三菱マテリアルに入社して最初に感じたのは、どの社員も非常に真面目で仕事にも誠実に取り組んでいるということです。一方で、自由闊達な議論や柔軟なチャレンジといった部分は乏しかったので、少し刺激を加えようと考えたのです」(亀山)

多少の抵抗は覚悟したと語る亀山だが、意外にもすんなりと受け入れられているようだ。デジタルマインドを高めつつ、組織内のコミュニケーションの活性化にもつながっているという。DX=デジタル変革によって意識を変え、企業風土を変えつつある亀山。その先に見据えているのは、「データ駆動型ビジネス」の定着だ。

「社長の小野が言っているように、三菱マテリアルの次の100年を実現するためには、ビジネスの付加価値を上げ、オペレーションの競争力を強化し、経営の意思決定のスピードを上げて不確実性に対応していかなくてはなりません。そのために必要な土台は『人材』と『データ』です」

データ自体は大量にある。問題は、いかに経営の観点で生かすかだ。すでに、各種データを自動的に取り込んで解析できる仕組みは整えており、DX人材育成の一環として、データサイエンティストなどのデジタル専門人材育成も100人規模で進めている。

「あとは、品質も生産性も、研究開発や経営管理もすべて『データでモノを言う』文化を社内に根付かせることが大きな課題です。そのためにデータを的確に収集・分析し、コアとなるデータサイエンティストを含め数千人規模の社員がデータを適切に使いこなせるようにしたいと考えています。まずはそれを達成することを、当社のAI経営の一里塚と位置付けています」

亀山が展開してきた施策は、決して特殊なものではない。しかし、現状を可視化して経営陣の意識のベクトルを合わせるという基本をしっかり押さえたからこそ、どの施策も実効性を発揮する。AI経営という新たなチャレンジだからこそ、基本的な経営姿勢が肝要だということを、“プロのDX推進役”は示しているのではないだろうか。


かめやま・みつる◎90年代に日産自動車でITを活用した業務改革プロジェクトを担当し、資生堂では最高情報責任者としてグローバルIT戦略を統括。2020年に三菱マテリアルに入社し、同社初のCDOに就任。

Promoted by PwC Japan / text by Hidekazu Takahashi / photographs by Shuji / Goto edit by Akio Takashiro

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