31歳でパティシエの世界チャンピオンになったのち、1997年33歳のときに自らの店舗を構えた。その後、40以上のタイトルを取得するほか、2015年には、ベルギー王室御用達のショコラティエとしても認定されている。
現在は、ベルギー国内を中心にヨーロッパ各国、ドバイ、そして、アジアは中国と日本に店を展開している。日本では銀座本店のほかに東京近郊に5店舗と名古屋で計7店舗がある。世界に40店舗を展開しているとは、ビジネスマンとしても、ゆるぎのない成功を手にしているといえるであろう。
ビーントゥバーができるまで
本店は首都ブリュッセルの中心地に位置するが、まずは、全世界のショコラファンのもとに届けられるすべての製品が作られる、郊外のアトリエを訪ねた。エントランスを抜けた空間には、ペルー、ヴェネズエラ、サオトメ、などと書かれたカカオ豆の入った大きな麻袋が大量に貯蔵されている。この豆たちが複雑な過程を経て、ショコラになるのだと思うとわくわくするではないか。
最初に、製作工程を説明してもらいながら、アトリエを見て回った。工程を順に記そう。ビーントゥバー(豆から板チョコへ)の全貌は次の通りだ。
1. 豆の本質を引き出すための「ロースティング」。約140℃で40分ほど加熱するが、この工程が最も繊細な作業だといわれる
2. カカオニブを「ココアミル」ですりつぶし、カカオリカーを作る
3. なめらかにするための撹拌作業「リファイニング」
4. クーベルチュールを作るための「コンチング」。豆の種類や仕上げる商品によって異なるが、強い力で18~48時間も練る
5. できたクーベルチュールを製品化する
マルコリーニ氏(右、2020年撮影、Getty Images)
そのところどころで、搾ったばかりの液体、微細に粉砕されたカカオ、なめらかになりつつある流動体のカカオなどを試食させてもらったが、そのどれもが香りも味も驚くほどに鮮烈で、脳にダイレクトに響くような衝撃を覚えた。そして、改めて、ショコラはワインやコーヒーのように、あくまで農産物なのであるということを実感した。
また、どの工程に使用する機械も、もちろん動力を用いているのだが、どこか、陶芸家や漆芸家の工房を訪れているような静謐な空気感さえ感じられた。それは、マルコリーニ氏が、自身をアルチザン=職人と言ってはばからず、一つ一つのショコラに丁寧に向き合っていることの証であろう。