ブリュッセルの本店も、アントワープの新店も、現在扱っている8か国(ペルー、ヴェネズエラ、キューバ、サオトメ、インド、インドネシア、マダガスカル、中国)のカカオ地図を描いたディスプレイが、店内を象徴的に彩っている。日本でも20周年を機に、そちらの方向へも力を入れていくそうだ。
(c)Marcolini Brussel store
また、ブリュッセルには、ビスケットの専門店もあり、「KUMO」という、口の中ではらりと崩れる独得の食感が魅力のスイーツが人気を博している。なんと、こちらのモチーフのインスピレーションは、日本のどら焼きだそう。そんな風に遊び心と好奇心が旺盛なところも魅力の一つだ。
インタビューの最中にも、スタッフが試作品のチェックを求めてたびたび訪れる。必ず試食をし、感想をのべる。一人が、その夜のパーティーのフィンガーフードの生地を持ってきていたが、魚介のマリネをのせるためのものだそうで、スイーツの枠を超えた、斬新な作品まで手掛けるなど、仕事の幅の広さもまたトップレベルだ。
プルーストのマドレーヌに
最後に今後の夢を聞いた。「私の情熱とショコラ作りのノウハウを届けることができるショコラティエの学校を作ることです。と、同時に、感動を与え続けること。つまり、私のショコラが、“プルーストのマドレーヌ”になれればと思っています」と結んでくれた。
“プルーストのマドレーヌ”とは、文豪マルセル・プルーストの『失われた時を求めて』の紅茶に浸したマドレーヌをきっかけに幼い頃の記憶がよみがえった一節から、欧米では“記憶の鍵”という意味で使われるフレーズだ。自分のショコラが、人生の一瞬を切り取り思い出させる鍵になるというのは、なんと素敵なことであろうか。社会派でありロマンチスト、その二面性が人を惹きつけてやまないのであろう。
連載:シェフが繋ぐ食の未来
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