なぜダイキンはルクセンブルクのユニコーン企業OCSiAlへ投資を決めたのか
ダイキンの化学事業部は、2018年からフッ素化学事業におけるリチウムイオン電池材料の用途開発や複合材料の素材開発において、OCSiAlとの協業を進めてきた。単層カーボンナノチューブは、既存の工業材料と組み合わせることで、より優れた機能を備えた新素材を創り出す添加材として期待されている。例えば、単層カーボンナノチューブの電気伝導率の高さを生かし、リチウムイオン電池の電気容量や出力アップに貢献するのだ。
ダイキンは、戦略経営計画FUSION25において、フッ素材料を中心とした商品の用途開発による市場創造を掲げた。顧客やスタートアップなどパートナー企業との共同開発を通じて、半導体・自動車・電池・情報通信などの成長市場への提案力を強化し、新たな価値の創出に取り組んでいる。そこで本出資により、OCSiAlとの連携をより強固にし、EV向け電池材料などの新商品開発やグローバルでの用途開発を加速する狙いだ。ダイキンのフッ素材料とOCSiAlの単層カーボンナノチューブを組み合わせることにより新たな機能を付与することができ、特に成長市場への新たな価値創出、用途開発の加速が期待できる。
グローバルオープンイノベーションの過程
大阪府摂津市にある、ダイキン工業の技術開発のコア拠点「テクノロジー・イノベーションセンター」。テクノロジー・イノベーションセンターは世界最先端の試験設備を備える
また、ダイキンの化学事業部は新規技術探索をおこなっており、新規添加材の一つとしてカーボンナノチューブに着目していた。特に、単層カーボンナノチューブは極めて少ない添加量で高性能化が図れるため、単層カーボンナノチューブに絞って調査している中でOCSiAlにたどり着いたのだ。
そして、ダイキンはOCSiAlにコンタクトを取り、香港で初対面を果たした。その2、3カ月後からOCSiAlの研究所などの訪問を重ね、2018年にリチウムイオン電池などの協業を開始。 これまで3年間協業し開発を進めていく中で、いくつかの新規材料の開発に成功し、商品化への道筋も見えてきた。シナジーも大きく期待でき、より共同開発を加速させるために投資することを今年度決定した。
初めてのコンタクトから投資決定まで順調に協業を進めているが、互いのコミュニケーションをどのように深めてきたのだろうか。化学事業部マーケティング部担当課長の寺田純平氏は「OCSiAl日本代表と日々やり取りし、必要に応じてグローバルでWeb会議や、日本、ルクセンブルでのフェイスtoフェイスでの面談を繰り返しています。当社はグローバルに拠点を持っていることから、現地での繋がりと本社としての日本側とのコミュニケーションを重層的に展開しています。特に新型コロナ感染拡大以降、日本から海外へ直接赴くコミュニケーションが難しくなってしまったこともあり、意識的にコミュニケーションの頻度を高めるようにしました」と語った。
加えて、同CVC室長の三谷太郎氏は「具体的なテーマ推進における技術者同士の接点は毎週のようにミーティングを設定していますが、それに加えCVC室では全社の情報をスタートアップ側にインプットし、より経営的な目線でのコミュニケーションをスタートアップの経営陣と行うことで、協業を単独のテーマに終わらせるのではなく、社内でも他の部門に展開できないかということも日々模索しています。スタートアップから見た時にはCVC室がハブとなり社内外を接続していくインターフェース機能を担うことが重要だと考えています」と語っている。