「忘れられた英雄」コロナワクチン開発者の苦闘

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2つの小規模な会社、プロティバ・バイオセラピューティクス社とテクミラ・ファーマシューティカルズ社で主任研究員としてこの重要なテクノロジーの開発チームを率いていたのがマクラクランだった。ところが今になると、マクラクランの革新的な研究成果を公に認める人はごくわずかで、大手製薬会社にいたってはいっさい口をつぐんでいる。しかもマクラクランは自身が開発に携わった技術から、いっさい収入を得ていない。

「ニュースを見ると、僕たちが開発した技術を使ったワクチンの話題ばかりだ」

「残りの人生をこの問題にこだわって生きていくつもりはないが、忘れてしまうことはできないだろう」とマクラクランは言う。「毎朝ブラウザを開いてニュースを見ると、どこもかしこもワクチンの話題ばかりだ。そのワクチンは僕たちが開発した技術を使っている。それは間違いない」

モデルナ社は、自社のmRNAワクチンがマクラクランの送達システムを使っているという疑いをきっぱり否定しているし、ファイザー社と提携するワクチン製造会社ビオンテックもその件については口を濁す。訴訟は継続中で、これには大金がかかっている。

モデルナ社、ビオンテック社、ファイザー社が2021年に販売したワクチンの売上げは450億ドルに達する見込みであるのに、3社ともマクラクランには一銭も金を支払っていない。

逆にグリットストーン・バイオ社(旧・グリットストーン・オンコロジー社)などのコロナウイルスワクチン製造会社は先頃、マクラクランが率いたプロティバ社とテクミラ社の共同開発による送達テクノロジーに、売上げの5~15パーセントに相当する権利を認めた。

バイデン大統領、コロナワクチンの特許権放棄求める


マクラクランはもはやこのテクノロジーに金銭的な利害関係を持ってはいないが、モデルナ社およびファイザー=ビオンテック社のワクチンの売上げから同率のロイヤリティーが支払われれば、2021年単年で67億5000万ドルもの利益を生み出す可能性がある。

だが運命のいたずらか、コロナワクチンの特許権放棄を求めるバイデン米大統領のせいで、時代に先駆けたマクラクランの開発技術の知的財産権が大金を生み出す可能性はきわめて低い。

3社とも否定しているが、FDAに提出された研究論文と申請書を調べれば、モデルナ社やファイザー=ビオンテック社のワクチンがマクラクランのチームの開発したシステムと酷似する送達システムを使用しているのは明らかだ。どちらも、慎重に配合された4種類の脂質分子をアルコールとTコネクター装置を用いて混合し、mRNAを高密度粒子で封入している。

モデルナ社は長年、独自開発の送達システムを使用していると主張していたが、いざ新型コロナワクチンをマウスで試験する段になると、マクラクランの開発技術と同じ4種類の脂質を同じ比率で用いていた。

臨床前のワクチン製剤設計はワクチン自体とは別物だというのがモデルナ社の主張だ。その後にモデルナ社が提出した書類によれば、同社のワクチンはマクラクランの送達システムと同じ4種類の脂質を使用しているが、1種類は特許を所有している脂質で、「微修正された」未公開の比率を用いているという。

ファイザー社とビオンテック社も同工異曲だ。FDAの文書によれば、両社のワクチンはマクラクランの開発チームが数年前に特許を取得したものとほぼ同じ比率の4種の同一の脂質を使用している。ただし、脂質の1つは新たに登録した変種であるが。
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翻訳・編集=小林さゆり/S.K.Y.パブリッシング/石井節子

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