RSに弱点があるとすれば、後部席と言える。さいわい足を置くところに、「フット・ガレージ」と呼ぶ足を置く特別にえぐったスペースはあるものの、褒めるのはそこまでかな。他のアウディにも通じる話だけど、後部席の背の部分は立ち過ぎていて、少しでもリクライニング機能が欲しいところ。長距離クルージングには向かないだろう。また、リアのウィンドーは下まで開かないし、デザイン重視の太いCピラーのおかげで少し圧迫感を感じる。
さて、走りはどんな感じか。RSの兄弟車のポルシェ・タイカンには、後輪駆動のスタンダードモデルもあれば、4WDの「4S」や「ターボS」もある。しかし、e-tron GTと高性能版「RS e-tron GT」は、どちらも前後2基のモーターによる「クワトロ」のみ。アウディの駆動用リチウムイオンバッテリーや800Vシステムは、タイカンと基本的なシャシーを共用するものの、細部のスペックは当然ながら微妙に異なる。e-tron GTはどちらの仕様も駆動用バッテリーの総電力量は93.4kWhで、これはポルシェの「パフォーマンスバッテリープラス」にあたる。2基のモーターを合わせた最高出力はRS e-tron GTで646ps、830Nmと非常にパワフル。
「車重は2.3トンにもかかわらず、0-100km/h加速が3.3秒」とアウディは言うけど、僕が試したところ、3秒フラットあたりではないか。とにかく異次元に速い!「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のデロリアンではないけど、RSのフル加速をすれば、タイムスリップしてしまいそうな感じがする。必要以上に速いかもしれないこのクルマには当然、強力なストッピングパワーもついている。ブレーキももちろん、放熱処理が抜群のカーボンセラミック性6ピストンのブレーキが採用されているので、制動力は文句なし。
エンジン車でシフトパドルと言うと、当然ATと繋がっているけど、BEV(ピュアEV)であるRSの場合、回生ブレーキのレベル(3段階)を変えるシフトパドル(下写真)が装備されている。
ハンドリングもピカイチ。よほどオーバースピードでコーナーに進入しない限り、RSは素直にシャープにターンインして綺麗にラインをトレースしてくれる。それもRSに搭載されるエアサスペンションのおかげで、スピードにも路面状況にも関係なくパーフェクトにしなやかでフラットな姿勢をキープする。また、RSについていたオプショナルなオールホイールステアも、特にタイトなコーナーには効く。
EVというと、充電を心配する人も多い。1充電当たりの航続距離はe-tron GT、RS e-tron GTともWLTCモードで534kmと発表されているけど、リアルワールドでは450kmほどだろう。車両は150kWまでの急速充電に対応しており、90kWチャージャーの場合は30分で約250km分を充電できるそうだ。
e-tron Charging Serviceの充電カードを使うことで、全国21700基*のNCS充電ステーションを利用できる。(*2020年4月時点)
10年前に試乗したテスラ・モデルS、また2年前に乗ったポルシェ・タイカンは、改めてEVを見直させてくれた。ファン・トゥ・ドライブでスリリングなEVはついに現れたとつくづく感じた。でも、アウディRS e-tron GTに乗ったら、今までにない気分に直撃した。テスラやポルシェは爆発的な加速、スポーティな走り、納得できる航続距離を提供してくれているけど、今回はついでに、ヨダレが出るほどに美しさと品の良さが加わってきた。ただ、あの約1800万円のプライスがネックかな。
国際モータージャーナリスト、ピーターライオンの連載
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