「私は45日間をかけて摂食障害の治療に取り組んだ。そして施設を出るやいなや、家に帰る飛行機の機内で酒を飲んでいた」と、マッキントッシュは当時を振り返る。それから18年が経った現在、マッキントッシュは、若き日の自分が本当に受けたかった、包括的治療プログラムの構築に取り組んでいる。
そのためにマッキントッシュがリサ・マクラフリン(Lisa McLaughlin)と共同で立ち上げたのが、ワークイット・ヘルス(Workit Health)だ。ミシガン州アナーバーに本社を構えるこのスタートアップは、個別の物質使用障害(アルコールや薬物への依存や乱用といった問題行動の総称)ではなく、同時に起こる問題すべてを治療することを目指している。
「本当に1つの問題しかないと診断された人は、私たちが知る限りでは誰もいない」と、今では36歳になったマッキントッシュは証言する。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックによってオンライン治療がにわかに全米で注目を集めたが、ワークイット・ヘルスはそれ以前から、問題行動に対処するバーチャル医療サービスを提供していた。従来の12ステップ・プログラムが、当人の自制に根ざしたアプローチを取るのに対し、ワークイット・ヘルスでは、オンラインでの個人および集団療法と、投薬治療(具体的にはブプレノルフィンやナルトレキソンなどを用いる)を組み合わせた手法を採用している。
ワークイット・ヘルスでは他にも、共同最高経営責任者(CEO)を務めるマッキントッシュとマクラフリンが「プレシジョン・ラーニング(精密学習)」と呼ぶ、数千本におよぶオンライン講座も提供している。これは、治療を補う手段として同社が開発したもので、社会的孤立から対人関係のストレスまで、患者が遭遇するさまざまな問題への対処を支援するよう作られている。
同社の目標は、バーチャルな手段を活用したアプローチにより、物質使用障害を抱えながらも治療を受けていない人たちに支援の手を差し伸べることにある。米国では、この問題を抱える患者のうち実に10人に9人が治療を受けていない。その理由としては、身近なところに治療を受ける手段がない、費用が高く手が届かない、心理的な抵抗感がある、といった点が挙げられている。
こうした独自のアプローチと、米国では2000万人以上にのぼるアルコール依存症およびオピオイド使用障害患者の治療に道を開く可能性があることから、ワークイット・ヘルスにはトップクラスの投資会社から資金が集まっている(なお、2000万人以上という数字には、ギャンブルや喫煙への依存など、ワークイット・ヘルスが治療対象としている他の症状は含まれていない)。
ワークイット・ヘルスは、シリーズCラウンドで1億1800万ドル(約134億円)の資金を調達した。消息筋の話によると、インサイト・パートナーズが主導したこのラウンドでは、同社への評価額が約5億ドルに達したという。ワークイット・ヘルスがこれまでに株式で調達した資金は総計1億4000万ドルに達する。