プリオーレは、チェスをプレイする強い女性を主役に据えているという点で、このドラマがとても気に入ったが、ストーリー展開については、いくつかの点で失望させられたという。
「ドラマでは、若い女性プレーヤーが直面する苦闘が描かれていなかった」と、プリオーレは指摘する。
「私がチェス界で師と仰ぐ女性プレーヤーの中には、チェスの大会でセクシャルハラスメントを受けた人や、会場でレイプされた人がいる。一方、ドラマではあらゆる人がベス(ドラマの主人公)を支えてくれる。しかし実際には、そのような状況にはならなかっただろう。その点にはがっかりさせられた。このドラマには、女性たちが直面する問題に光を当て、全世界に伝えるチャンスがあると感じていただけに、失望も大きかった」
ドラマ『クイーズ・ギャンビット』で主演を務めたアニャ・テイラー=ジョイ(Getty Images)
プリオーレは、チェスの普及を推進するNPOに力を注ぐ以外にも、複数のプロジェクトに挑戦している。その一つが政治活動だ。2019年に、彼女はピッツバーグ市の教育委員への立候補を表明した。ペンシルベニア州では、史上最も若い教育委員候補の1人だった。彼女によれば、立候補したのは、若者が学校の代表となり、意思決定のプロセスに参加すべきだという信念からだったとのことだ。
選挙活動を始めると、プリオーレは、男性候補者からのハラスメントや、彼女の適性を疑うような発言にしばしば直面したと語る。さらに男性候補たちは、このような発言をしていない時でも、彼女を無視するのが常だったという。
そこでプリオーレが立ち上げたのが、第2のNPO「Y22」だ。こちらは、若者をNPOの役員に登用することを主な目的としている。
プリオーレはY22を設立した動機について、こう語っている。「(NPOの)クイーンズ・ギャンビットは、世界に存在する多くの問題や障壁に、私が開眼するきっかけになったが、その一つが、若者の政治参加の問題だ。私がこの問題に情熱を傾けるようになったのは、異なる環境に身を置くなかで、それぞれの場で全く違った扱いを受けることを、身をもって知ったからだ」
プリオーレの歩みは減速しない。
自身の今後についてプリオーレは、フルタイムで政治活動に従事することになるだろうと考えている。そして今後、どこかの時点で、クイーンズ・ギャンビット・チェスインスティテュートの運営からは身を引くつもりだ。それは、このNPOが今後も若者主導の形を維持するべきだという信念があるからだ。
これまでの自身の長い道のりを振り返って、プリオーレは感謝の思いを語った。そして、クイーンズ・ギャンビット・チェスインスティテュートが今後も若い女性たちを鼓舞し、彼女たちがチェスの盤上と自らの人生で主導権を握り、世界を変えるきっかけを作って欲しいとの期待を口にした。
「(この協会には、)少女たちを奮起させ、やりたいことは何でもできるという見本を示す存在であり続けて欲しい。私たちは人生で、本当に多くの障壁に直面する。それだけに、チェスを通じて、自らが手にできるチャンスや可能性に目を向ける手段を得て欲しいと思っている」