プリオーレは、わずか8歳の時に、チェスの指導を始めた。その後もハラスメントや中傷は収まることがなく、同年代の子どもたちだけでなく、その親からもひどい扱いを受けた。女性で年少だという理由で、屈辱的な思いを味わうことも多かった。
「親の多くは、自分の息子が8歳の女の子からチェスを習うことを嫌がった」と、プリオーレは言う。
それでも、彼女はくじけなかった。その後は、地域のコミュニティセンターや学校のチェス教室で教師役を務め、若い女性向けに自身のチェス教室を売り込んだ。だが、当時のチェスの世界には、少女や女性が集まれる場所がまだ存在していなかった。
「チェス界の若い女性や少女を支援するだけでなく、チェスを通じて得られたスキルを、人生で直面する多くの課題に対応できるよう促す、そんな団体が必要だと考えた。私はチェスが、女性たちが盤上の世界で主導権を握り、さらに人生でもそうできるようにするための手段になってくれたらと考えていた。(チェスを通じて)女性たちは、戦略の策定や批判的思考法、集中力といったさまざまなスキルを身につける。また、問題の捉え方や、複数の解決法を見つける方法も学ぶことができる」
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14歳になったとき、プリオーレはNPOの設立に向けて調査を開始した。計画と準備に数カ月をかけたのち、彼女はクイーンズ・ギャンビット・チェスインスティテュートを設立した。
設立以来、同協会は着実に成長を遂げてきた。プリオーレによるとこのNPOは、2018年以降で1万人以上の学生に対してチェスを教えてきたが、そのうち半分が若い女性だったという。
プリオーレは、チェスを学んだことで得た収穫について、こう語っている。「私はチェスをプレイするなかで、集中力を切らさずに長時間座っていられる能力を身につけたことで、たくさんの扉が開いた。だがそれだけではない。『ある程度は自分が主導権を握れることが存在する』という感覚も、身につけることができた」
「まだ若く、成長の途中にある時期には、自分にはどうにもできないことが山ほどあると感じるものだ。だが、チェスに関して言えば、プレーヤーは盤上を支配できる。チェスの駒を思うがままに操れる」
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは、クイーンズ・ギャンビット・チェスインスティテュートにとってはさらなる発展の機会となった。同協会も多くの事業所と同様に、バーチャルに活路を求めざるを得なかったが、その結果、従来であればピッツバーグ周辺の地域で対面で教室を展開するだけだったが、教える対象が全米、そして全世界に広がったのだ。
2020年の終わりにかけて、バーチャル教室でのプリオーレと生徒たちの話題は、チェス以外のことにも及んだ。史上初めて女性キャラクターが主役を務める、チェスをテーマにした連続ドラマが、ネットフリックスで公開されたからだ。このドラマ『クイーズ・ギャンビット』をめぐり、プリオーレと生徒たちは熱い議論を繰り広げた。