キャリア・教育

2022.03.21 18:30

男性優位のチェス界に斬り込む、リアル「クイーンズ・ギャンビット」の挑戦

Getty Images

ネットフリックスの人気ドラマ『クイーンズ・ギャンビット』の主人公ベス・ハーモンは、もう古い。チェスの女王は、現実世界にいるのだ。

その名はアシュリー・プリオーレ(Ashley Priore)。4歳の時に父親をチェスで負かしたという逸話の持ち主だ。幼い子どもとしては信じられないほどの偉業だが、その後彼女が積み上げた実績を見れば、これも全く意外ではない。現在21歳のプリオーレは、これまでに公職に立候補したほか、3冊の著書を出版し、自らが情熱を傾けるミッションに関して2つのNPOを立ち上げている。

プリオーレが最初のNPOを立ち上げたのは2014年、わずか14歳の時のことだった。この団体は「クイーンズ・ギャンビット・チェスインスティテュート(Queens Gambit Chess Institute)」という名で、ペンシルベニア州ピッツバーグに住む学生を対象に、チェス教室やチェスクラブ、競技大会を開催し、個人指導も提供している。

あらゆるバックグラウンドを持つ学生を受け入れているが、プリオーレが特に力を入れているのは、女性や少女へのチェスの普及だ。そこには、自身が男性優位のチェスの世界でのし上がっていく際には決して得られなかったような場所を、若い女性たちに提供したいという思いがある。

プリオーレの旅は、生まれ育ったピッツバーグの街から始まった。4人きょうだいの末っ子として生まれたプリオーレには、2人の兄と1人の姉がいる。小さい頃に、父親が兄2人にチェスを教える様子を見たプリオーレは、自分もチェスをやりたいという強い意志を示した。

「母が父に、兄たちにチェスのやり方を教えるように頼んだと聞いて、姉と私はものすごく腹が立った。『どうして兄さんたちはチェスのやり方を教えてもらえるのに、私たちはダメなの?』と問い詰めた」とプリオーレは振り返る。

「その体験は、チェスの世界では男女の扱いに違いがあることを思い知らされた、私が覚えている中では最初の実例だった。この世界は圧倒的に男性優位だ。大人は、少年や息子にチェスを教えるのには熱心だが、娘には目もくれない」

だが、それからまもなく、プリオーレ家のきょうだい4人は、全員が競技チェスの世界に身を投じることになった。

チェス大会への出場体験を、今では楽しい思い出として振り返るプリオーレだが、かなりひどいハラスメントや女性嫌悪、性差別にさらされたことも忘れてはいない。チェスの大会では、出場している女性はプリオーレ姉妹だけ、という状況が常だった。一度は、幼い少年が、対局に負けた腹いせにチェスボードを彼女の顔めがけて投げつけてきたこともあったという。

「時が過ぎ、私はまだチェスを続けていたが、女性や少女を取り巻くチェス界の環境はいっこうに改善しなかった」とプリオーレは述べる。
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翻訳=長谷睦/ガリレオ

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