偶然出会った2人の女性。「私たちは同じだ」という意識がもたらす絶望と希望

PhotoAlto/Michele Constantini/Getty Images


翌日マリカを伴って、ヤナは湖のほとりの廃墟と化した複合施設に赴く。おそらくこの時点で彼女はある覚悟を決めたと思われるが、それはまだ表面化してこない。
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ただこのシーンで、2人の並びが色彩的に似てきていることに私たちは気づく。

出会った当初、黒と赤のレースのビスチェ、下半身のシルエットにぴったり張り付いた穴あきのスパッツのマリカと、黒髪で地味な服装のヤナとは、見た目の印象が対照的だった。

着のみ着のままだったマリカはその後ヤナの部屋着を借りて過ごし、2人並んで歩くこのシーンでは、マリカはグレーのキャミソール、ヤナはグレーのカディーガンを羽織っており、当初の対照性は薄らいでいる。
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期せずして共犯関係となった2人の外見は、この後さらに接近していく。

“真実を知る賢者”は誰か


シーンの背景は、どの場面もはっきりした色彩がない。灌木や松の地味な緑、枯れ草、登場する建物らしい建物はやはりくすんだ色調の廃墟の複合施設と古びた雑貨屋、そして焦茶色のヤナの家くらいだ。全体に閉塞感が漂っている。

ヤナの家の室内はやや陰気ながら落ち着いたトーンでまとめられ、壁には鹿の頭部の骨が飾られている。狩猟が趣味だった父の思い出を語るヤナの口調、そして父の猟銃が登場するシーンは謎めいた不穏さを漂わせる。

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Norbert Rupp/Getty Images


そもそもマリカを家に入れてから、ヤナが猟銃を取り出してじっと眺める場面も、いざという時に身元不明の女から身を守るためなのか別の目的があったのか、ぼかされている。

こうした抑制されたトーンの中で、硬質な魅力を放っているのは、骨っぽく陰影に飛んだ2人の顔だ。終始クールな面持ちの中に底知れぬ複雑さを滲ませるヤナと、束の間の安心と不安が錯綜しつつも時に無邪気な表情を見せるマリカ。女優の演技がすばらしい。

ヤナの背後の謎が深まる中、森ではぐれたマリカがたどり着くのが、村で唯一の女性である90歳になる「アンカおばさん」の家。アンカの人物造形が、これまたすばらしい。

頭にネッカチーフを巻き、顔には深い皺が刻まれ、マリカに薬草酒を勧めながら際どい冗談を口にして笑うこの老婦人は、“真実を知る賢者”である。そして、彼女の対極に位置する者、「俺は知っている」と思いつつ実は半分しか知らない愚者がガンツだ。

ガンツに見張られたガレージの車の中で、同じキャミソール姿のマリカとヤナが、初めて「私たちは同じだ」と確認し合う絶望と希望がないまぜとなったシーンを経て、なぜ冒頭に暴行事件が置かれていたのか、なぜヤナは故郷に戻ってきたのかを私たちは知る。

ある意味で杜撰とも言える復讐計画の、ギリギリの綱渡り。彼女たちが共有する傷と秘密は、すべての女性たちの置かれた地平に繋がっている。

連載:シネマの女は最後に微笑む
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文=大野 左紀子

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