肌色だけで24色。クレヨンとバンドエイドの多様性

写真:Crayola


コンサルタントは「メイクアップ・ブランド」


マイノリティー対象の商品の開発は以前より徐々に始まっていたが、昨年のブラック・ライブス・マター(BLM)がそれを加速した。コロナ禍によっていったん停滞していた映画、ドラマ、CMの撮影が再開されると、登場人物にもマイノリティーが格段に増えていた。11月に全米各地で地方選挙が行われ、多くのマイノリティー候補者が当選を果たした。人々が肌の色の違いを事実として認め、受け入れ、その上で肌の色に関係なく、優れた人々を選び始めているのだ。

実はクレヨラもバンドエイドも過去に多様化商品を売り出しているが、どちらも売れ行きが芳しくなかった。クレヨラが1992年に発売した「マルチカルチャラル」は、既存の色の中から黒、白、茶、セピアなどを抜き出し、詰め合わせただけだった。

その失敗を踏まえ、今回の「カラーズ・オブ・ザ・ワールド」はメイクアップ・ブランドをコンサルタントに迎え、世界中の人々の肌の色を分析し、最終的に24色とした。基本の色味を「アーモンド」「ローズ」「ゴールデン」の3つとし、それぞれに「ディープ」「ミディアム」「ライト」など何段階もの濃淡を作った。このクレヨンは好評を博し、色鉛筆、マーカーも発売された。


写真:Crayola

ちなみに日本ではクレヨンから「肌色」の表記が消されて「薄橙」となったが、英語での「肌色 skin tone」は特定の色を指さず、どんな色であれ、その人の肌の色を指す。ゆえに「カラーズ・オブ・ザ・ワールド」に黒と白は含まれていない。完全な漆黒、もしくは純白の「肌色」を持つ人は存在しないからだ。

構造的差別をくつがえした「BLM」


どんな商品であれ多様化、つまり多品種展開は予算がかかる。企業が商品の多様化に二の足を踏んできたのはマイノリティー消費者を尊重しない差別意識に加え、利益優先も理由だった。これを構造的差別と呼ぶ。それが今、ようやく覆されつつある。長年にわたる黒人運動、わけてもBLMの成果と言えるだろう。

最後にアメリカのクレヨン事情を少々。アメリカではクレヨンはかなり安く、クレヨラの従来の24色入りは大手量販店なら2ドル以下。肌色用の「カラーズ・オブ・ザ・ワールド」だけでは絵を完成できないが、基本セットと共に揃えても無理なく買える。


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幼稚園や小学校でのクレヨンの使い方も日本と大きく異なる。数人の園児や児童が机を囲み、真ん中に人数分のクレヨンをどさっと放り込んだ箱かカゴが置かれる。子供たちはその中から使いたい色を探し出し、絵を描く。お絵描きの時間が終われば先生が箱を回収する。子供たちは重い文房具を持ち帰る必要がない。こうした面においては、アメリカはいたって大らかなのである。


堂本 かおる◎大阪市出身。1996年に渡米、ニューヨーク市マンハッタン区北部ハーレム在住。ハーレムのパブリックリレーション会社インターン、学童保育所インストラクターなどを経験後、ライターに。以後、ブラックカルチャー、移民/エスニックカルチャー、アメリカ社会事情全般について日本の雑誌・新聞・ウェブサイトに執筆(TwitterOfficial Web Site

文=堂本かおる

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