日本の経済成長の停滞がスポンサーシップに反映しているのは確かだ。が、日本企業のスポンサーシップに対する認識にも原因があると、岡部は言う。
「日本企業はスポンサーシップを買ったら、そこでおしまいになっているケースも見られる。看板や胸のロゴなど名前の露出といったアソシエーションで終わっている。実は、スポンサーシップは買ってから始まることなんです。欧米の会社は、アセットを使って、いかに顧客とのエンゲージメントを深めるかということに焦点を置き、高額なスポンサーシップ以上のお金をかけてアクティベーションしている」
スポンサーシップはアクティベーションが主流になってきている。ターゲット層とのエンゲージメントの獲得に成功した事例といえば、ハイネケンのアクティベーションだ。2013年から16年まで4年連続で実施したスペインの避暑地「イビサ島」での巨大イベントは話題をさらった。
島を貸切り、ビール購入者を島に招待して、ビールを片手にファイナルを観戦する一大パブリックビューイングを実施。この演出が消費者をハイネケンファンへと引き寄せたことは言うまでもない。協賛金の数倍ものコストをかけて行う外資企業のアクティベーションに対し、「アクティベーションの質・量ともに足りない」というのが日本の現状だ。
また、ハイネケンのようなスポンサー企業は通常、インハウスと外部リサーチチームによるアクティベーションの効果測定と検証を行う仕組みを構築している。この費用対効果のデータ化にも「日本は弱い」と岡部は指摘する。「詳しく数字を元にした分析が遅れているため、戦略や戦術が立案できない」。加えて、アクティベーションのデジタル化の遅れも深刻化している。
数々の難題が山積している中、パンデミックが日本のスポーツ業界を直撃した。損失額は2千億円とも言われている。日本のスポーツ・スポンサーシップが状況を好転させるうえで、起爆剤として注目しているのが、「スポーツベッティング」だ。
合法化されれば、グローバルスポンサーシップ市場規模に匹敵する新しいスポーツ市場が日本で誕生する。規模は推計650億ドル(約7兆2523億円)。だが、目下取り組むべき課題は、アフターコロナのアクティベーションをどう展開するかだ。スポーツ業界はいま、今後の明暗を決める分岐点に立っている。それに対する岡部の答えは、スポーツの本質を突いていた。
「スポーツファンがリアルな体験を渇望しているこの時がチャンス。リアルとオンラインのミックスでどんなアクティベーションを起こし、どうファンとエンゲージメントを高めていくか。ファンにもっと愛されるサービスを届けるように、スポンサーシップを突き詰める。この一点に尽きますよ」