来週の天気も、目的地に着く時間も、そして気になるあの店の味も……インターネットを使えば労せずして知ることが出来てしまう。予測することは、損を避けることができるし確かに合理的だ。しかし、「孤独のグルメ」の原作者・久住昌之は違う。口コミサイトなどインターネット上の前評判に頼ることなく己の勘のみを駆使して、作中に登場するような名店を見つけ出してきた。
『面(ジャケ)食い』(光文社)では、そんな彼と、6年間以上をかけて見つけたおよそ50もの飲食店との出会いが記されている。久住氏がその勘によっていかに“いい店”を見つけてきたのか、「リアル孤独のグルメ」とでも呼ぶべきそのストーリーがここにある。
「面(ジャケ)食い」の作法
本作のタイトルになっている「面(ジャケ)食い」は、久住氏によって作られた造語だ。
飲食店の見た目を見て入店するか否か判断することを、レコードのジャケットから好みの音楽かどうかを見極め購入する「ジャケ買い」になぞらえている。
「見たこともない、でも気になるレコードは、ジャケットの裏表を、穴の開くように見て、『勘』に頼って買うしかない。失敗は痛い。真剣勝負だ。これを『ジャケ買い』と言っていた。真剣勝負を続けていると、不思議とジャケ買い勘は鋭くなった」
飲食店でいうジャケットとは店の見た目、店構えである。事前調べなし。ふらふらと歩き、目に留まった店をひたすら観察し、考えた末“勝負”をかけるのだ。モダンな外装の小ぎれいな店、食品サンプルケースにビニールスイカや木製の飛行機が並ぶ店、「エレキ300円」という謎メニューが掲げられた店……。様々なジャケットを持った店に時に躊躇しながらも久住氏は「よし、勝負だ」と足を踏み入れていく。
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「己の足で歩き回って、見つけて、観察して、考えて、勝負する。それでよかったり、失敗したりの経験を積み重ねるしか、自分好みの美味しい店を見つける能力は磨かれない」
「面(ジャケ)食い」は、まるでギャンブルのような一発勝負の賭けだ。しかしそれでも、「面(ジャケ)食い」をすることでしか得られない、口コミサイトの星の数でははかれない魅力を持った店との出会いもある。