部下から突然、「他にやりたいことが見つかって」と言われないために

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会社の選抜研修に推薦するなどのことはできるだろうが、すべての環境においてそれが可能なわけでもないし、そんなものはないというほうが多いかもしれない。そこで、特別な制度がなくてもできることを提案したい。

プロジェクト参加:普段の業務とは少し異なるプロジェクトに招待したり、リードを任せて新しい経験を積ませる。

シャドーイング:普段参加できない会議へのオブザーバー参加や議事録係としての参加の機会を作り、異なる視座を学ぶ機会を提供する(メンバーにマネージャー会議に参加してもらう等)。

メンターリング・コーチング
:他部署の役職の異なる人にメンターになってもらい定期的な内省のサポートをする。

目的が伝わるコミュニケーションを


もしかしたら、普段当たり前にやっている業務のアサインメントに、「育成」という目的を持たせ、「シャドーイング」「メンターリング」などのラベルを付けて、対話をするだけで、すぐに実行できることかもしれない。

例えば、「議事録をとってほしい」とマネージャー会議に招くのではなく、「リーダーになるために、一つ上の会議体に参加してみるのはどうだろう? そこで色々な会話を聞いて視座を高め、感じたことをまた議論しよう。これはシャドーイングという一つの学びの手法なのだよ」などという具合だ。目的とフレームワーク化により、同じ経験からでも得られるものは大きく変わってくる。


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こうした対話や機会の提供から生まれるコミュニケーションは、より本音を引き出すことにもつながる。もしかしたら自分には別にやりたいことがあるという本音がでてくるかもしれない。しかし、それは決してサプライズではなく、「相談」という形で耳に入ってくるはずだ。その時、上司は動揺するのではなく、個人のキャリアを心から応援できるようになる。

私はかつてシンガポールで人材紹介のコンサルタントをやっていた時、「キャリアに悩んでいるうちの部下の相談に乗って、何か良い仕事があれば紹介してあげてくれない?」と言われたことがある。

一見、できない部下を紹介したいように聞こえるかもしれないが、そうではない。「彼女はこのポジションで5年間やって成果も出した。次にこういうことをやりたいと言っているのだが社内には彼女の希望を叶えられるポジションがない。残念だけど、それよりもキャリアを応援してあげたい」ということだ。これはたまにではない、本当によくある話だった。

個人の意思の元、流動性の高い国ではリーダーにとっても自然な姿勢なのかもしれない。日本は今、まさにそういう時代への過渡期の真っただ中にいる。

連載「個人主義の時代における会社とリーダーシップ」
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文=西野雄介

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