アスリートというキャリアの「破壊者」格闘家コナー・マクレガーの稼ぎ方



打撃に偏重したファイトスタイルが特徴のマクレガー。左ストレートや多彩な蹴り技を武器にKOを狙うストライカーだ。(Coutesy of Vtaiwan)

戦略的なウイスキー業界への進出


法的な問題やパンデミックはマクレガーを“退場”させるには至らず、彼は昨年、登場した唯一の試合で(試合には負けたが)2200万ドルを稼ぎ、さらにスポンサー契約で800万ドルを稼いだ。だが、彼の過去12カ月の収入の大半は、自身のウイスキー・ブランド「プロパーNo.12」の過半数の株式を売却して得た1億5000万ドル(税引き前)が占めている。この売却益により、彼は21年アスリート長者番付において、リオネル・メッシ、ロナウドを抑えて1位に躍り出たのだ。

マクレガーのウイスキー業界への進出は、きわめて戦略的なものだった。「楽に稼ぐことだってできただろう」。彼はありきたりなスポンサー契約にとどまらず、18年に酒造事業を始めたことについて、そう語る。「手っ取り早くもうけようとすれば、そうすることもできたんだが、あえてリスクを取ったのさ。この事業に心血を注いだし、そうしただけの甲斐があったよ」。

彼は母国を代表する醸造家のアーサー・ギネスを手本にしながら、本物のアイリッシュ・ウイスキーづくりを目指した。アイルランドの大地と湧き水と穀物からなる彼のウイスキーは、すべて北部のアントリム県にある「完璧な場所」──メキシコの大手酒造メーカーのベクレ(テキーラのホセ・クエルボが有名)が所有するブッシュミルズ蒸留所──で生産されている。ベクレは当初、プロパーNo.12の少数株主だった。「アイルランドには一流の蒸留所と一流の飲み手がいる。俺の祖父さんは一流の飲み手だった。アイルランドはウイスキーづくりにかけては世界一だってよく言ってたよ」とマクレガーは言う。彼のもつ人気と発信力も相まって、プロパーNo.12は3年間で600万本出荷された。そして今年4月にベクレは、マクレガーが保有するプロパーNo.12の株式の大半を買い取ると発表した。

いまも全盛期の体形を維持するマクレガーは、まだ闘志満々のようだ。「長者番付に載ってるアスリートのほとんどは、本業のスポーツとスポンサー契約で稼いでる」。自身の収入の大半がリングではなく起業家としての活動で得たものであることを認めるかわりに、彼はそう言った。「でも俺はあいつらとは真逆だろうね。型破りな問題児だからな」。


コナー・マクレガー◎1988年、アイルランド生まれの総合格闘家。世界最高峰の格闘技団体UFCで2015年にフェザー級、16年にライト級王者を獲得。18年には起業家としてウイスキーブランド「プロパーNo.12」を立ち上げた。

文=デビッド・ドーキンス 写真=マイク・ローチ 翻訳=波多野理彩子

この記事は 「Forbes JAPAN No.085 2021年9月号(2021/7/26発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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