「全盛期はまだこれから」 大坂なおみが企業に愛される理由


ほとんどのプロのテニス選手の場合、けがや公の場での抗議行動によって、しばらくテレビに登場できなくなれば、実際に収入が減りかねない。スポンサーが一流選手に大金を支払うのは、彼らが主要大会で上位に勝ち残り、自社ロゴの放映時間がたっぷり取れることを見込んでいるからだ。

しかし、大坂はそんじょそこらのプロテニス選手ではない。若く、2つの文化を併せ持ち──母親は日本人で父親はハイチ系アメリカ人だ──社会正義の問題を積極的に訴えるようになる前から、クールな要素とグローバルな魅力を備えていると見なされていた。大坂はスポーツマーケティングの象徴となったのだ。

その結果、大坂の広告契約には、テニス界では大半の契約に見られるような、プレイ時間が限られる場合は契約料を下げるという条項が盛り込まれていない。それどころか、一部のファンがSNS上で大坂を激しく非難している状況にあっても、大手スポンサーの多くは、すでに彼女の擁護に立ち上がっている。

大坂を上回るのは3人だけ


ナイキはすかさず声明を出し、「私たちの思いは、なおみと共にあります。当社は彼女を支持するとともに、メンタルヘルスにかかわる自分の経験を打ち明けたその勇気をたたえます」と述べた。リーバイス、日産、日清食品、タグ・ホイヤーなどのブランドも、大坂を支持する同様の声明を出している。サラダ専門店のスイートグリーンやマスターカード、ビーツ・エレクトロニクスはSNS上で大坂の肩をもった。

昨夏の時点ですでに15の広告パートナーと契約していた大坂だが、この1年でその数は20以上に膨れ上がった。グーグルやルイ・ヴィトンも、最近、そのリストに加わっている。

スポンサー契約のラインナップで大坂と並ぶ人物は、スポーツ界にはほとんどいない。この12カ月で大坂を上回る広告収入を稼いだのは、プロテニスのロジャー・フェデラー、プロバスケットボールのレブロン・ジェームズ、そしてタイガー・ウッズだけだ。

この事実が示しているのは、いかに大坂がSNS上で批判されていても、彼女の躍進はまだその“とば口”に立ったにすぎないということだ。「大坂というブランドへの打撃はまったくないでしょうね」と、ベテランのマーケティングコンサルタントで、コロンビア大学の講師でもあるジョー・ファボリートは話す。
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文=ブレット・ナイト 写真=マテオ・ビラルバ 翻訳=木村理恵 編集=石橋俊澄

この記事は 「Forbes JAPAN No.085 2021年9月号(2021/7/26発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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