苦しさは成長の機会そのもの。ジャスパー・チャンが説く「非連続的な変化」の重要性

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「非連続的な変化」をあえて選ぶ


チャンさんは、大学卒業後、キャセイ・パシフィック航空に入社。しかし当時は、1997年の香港の中国への返還を控え、政治的な不安が立ち込めていた時代でした。その不安を「非連続的な変化」のきっかけにしようとカナダへの移住を決めます。

「キャリアを断ち切る不安がなかったわけではありません。でも、より大きなマーケットを持つカナダで再びキャリアを始めたことで、よりエキサイティングなチャレンジにすることができた。この選択が、大きな価値を、成長の機会を与えてくれたんです」

カナダに移住したチャンさんは、まずオンタリオ州にあるヨーク大学のビジネススクールに入学しますが、半年ほどしたある日、キャンパスでP&Gの募集広告を見つけます。通いながら仕事にも就くことができる募集でした。職種は、ファイナンス・アナリストだったそうです。

「実は僕は財務の経験はありませんでしたが、分析力が武器になると思いました。後にファイナンスの仕事でアマゾンにも入ることになります」

幸運だったのは、ビジネススクールと仕事、その両方が補完的な役割を果たしてくれたこと。仕事は勉強に役立ち、また勉強は仕事に役立ったといいます。

「ただ、会社にも行って、学校にも行ってですから、休んでいる暇なんてまったくない(笑)。本当に忙しかった。でも、時間というのは使うためにあるものですから。つらかったかと聞かれたら、ノーですね。仕事やレポートに追い立てられてイヤじゃなかったのかと聞かれても、ノーです」

むしろ、チャンさんはそれを楽しんでいたと語ります。

「苦しいこととか、壁とか挫折とかいうのは、成長の過程だからあるものなんです。仕事の場合で言えば、自分に能力があるからこそ、仕事を任せてもらえるだけのスキルがあるからこそ、そういう苦しい思いに直面するわけですね。実は苦しいことというのは、成長の機会そのものなんです」

ポストは求めるものではなく生じるもの


カナダのP&Gに勤務して5年。また「非連続的な変化」を得る機会を得ます。アジアの成長が加速するなかで、海外赴任の機会を模索しますが、中国にはポジションはありませんでした。ところが、代替案として日本への赴任を提示されたのです。

「幸運だったと思っているんですが、日本は世界的に見てもとても難しいマーケットだったんです。強力な力を持った優良企業が競合として存在する。ベンダーの存在など、ビジネスのやり方が独自である。物流システムも複雑。さらに何といっても、消費者の目が厳しい」

ファイナンス・ディレクターとして日本人の部下を持って仕事をしていましたが、同時にマーケティングなどのチームと一緒に、製品やブランドの経営をみんなでやっていくようなところがあったといいます。

「消費者のことを理解する、商品開発のプロセスを理解する一方で、経営チームというものについても学べる。僕には理想的な仕事でした」
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文=上阪 徹

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