さよならメルケル、そして「自動販売機」と呼ばれた後任の顔

ドイツのオラフ・ショルツ財務相(Photo by Jens Schlueter/Getty Images)


次期政権が「信号連立」と呼ばれる理由


選挙では過半数の議席を獲得した政党がなく現在、連立の枠組み作りが行われている。SPD、選挙で第3党になった緑の党、同じく第4党の自由民主党(FDP)による3党連立政権樹立へ向けた協議が急ピッチで進む。

3党の話し合いは当初、難航が予想されていた。富裕層増税などを掲げる環境政党の緑の党と、親ビジネスで緊縮財政を支持するFDPの意見の隔たりを埋めるのは容易でないとみられていたためだ。

だが、3党が10月に公表した合意文書には大きな歩み寄りの跡がうかがえた。「3党が譲歩したことで誰もが傷つかない内容」(仏ル・モンド紙電子版)だった。

文書には協議を主導するSPDや緑の党が主張してきた最低賃金の時給12ユーロ(約1572円、現在は9.6ユーロ)への引き上げが盛り込まれた。石炭火力発電所の廃止時期を38年から30年へ前倒しするのが「理想的」とも明記。緑の党の主張が色濃く反映された内容だが、「理想的」という文言を付記したのは、発電所が生み出す雇用の維持にも腐心するSPDへの配慮とも読める。

FDPが強く反対してきた富裕層増税も盛り込まれなかった一方、財政収支均衡などを求めた「債務ブレーキ」と呼ばれる仕組みを守ることが打ち出された。

予備協議の合意を受けて、SPDは「赤」、緑の党は「緑」、FDPは「黄」という各党のシンボルカラーから「信号連立」などと称される次期政権樹立への話し合いが正式協議へ移行。細部の詰めは残るが各党が目標にしてきた「クリスマス前の政権合意」も視野に入る。

懸念されるのが、最近の新型コロナウイルス感染者数増だ。ドイツのロベルト・コッホ研究所の調べによると、直近7日間の10万人当たり感染者数は5月以来の100人超え。11月1日には154.8人まで増加している。次期連立政権でもコロナ対策が最優先課題になりそうだ。

10月にブリュッセルで開かれた欧州連合(EU)首脳会議で、最後の出席になるとみられるメルケル首相は、各国首脳からのスタンディングオベーションを受けた。「アンゲラのいない首脳会議はバチカンのないローマ、エッフェル塔のないパリのようなもの」。ミシェルEU大統領はこう敬意を表した。

欧州メディアによれば、これまでに214回開催されたEU首脳会議のうち、メルケル首相が出席したのは半数の107回を数える。ユーロ危機や難民危機時の首相の危機管理能力については見方が分かれるが、「偉大なる欧州人」(ベルギーのデクロー首相)として、ドイツと欧州の関係を深化させた功績は多くのEU加盟国が認めるところだろう。

ショルツ氏がEU随一の経済大国のリーダーとしてどこまで存在感を示せるかが、これからの欧州の行方を大きく左右しそうだ。

連載 : 足で稼ぐ大学教員が読む経済
過去記事はこちら>>

文=松崎泰弘

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事