30U30

2021.11.05

「周りは欲張り。僕は、ただ……」松山英樹が重圧のなかで明かした本心

プロゴルファー 松山英樹(撮影=高須 力)


好きなことを仕事に。プロとしての一歩を踏みだしたのはその2年後である。

デビューイヤーの2013年に国内でいきなり賞金王を獲得。翌年には世界最高峰のPGAツアーに身を置き、早々に初勝利を飾った。当時22歳。テクニックでも、パワーでも、欧米のトッププレイヤーと対等に渡り合う姿に、多くのゴルフファンは夢を見た。これまで、日本の男子ゴルファーの前に立ちはだかってきたメジャートーナメントの壁を、“怪物”が壊す瞬間がきっと来る──。

その期待に反することなく、松山は2017年2月に丸山茂樹の最多勝利記録を更新する4勝目を挙げ、8月には25歳にして通算5勝目を“準メジャー”に相当する世界選手権シリーズ2勝目で飾った。


2017年2月「WMフェニックスオープン」を連覇、8月「WGCブリジストン招待」で世界選手権2勝目。 (Photo by Andrew Redington/Getty Images)

世間と内面からの二重の重圧


そのころにはもう、世間の注目は「メジャー制覇」の一点だったと言える。松山もそれを「目標」と公言した。本心はどうだったか。その可能性を信じてやまなかったからこそ日々の鍛錬にも真剣だったが、ふと我に返るときもあった。

「周りは欲張りだなとも思いますよね。もう、優勝しても“普通のトーナメント”では満足できない人もいる。僕のなかでは違うんだけどね。もちろん、応援してくれる人たちの期待に応えられたらいいし、応えたい。でも僕は……、ただ自分の好きなこと、ゴルフがもっとうまくなりたいだけ」

その生活スタイルから推し量るに、松山にはゴルフ以外に特別な趣味がありそうでもない。スマホを取り出しては、国内外のゴルフの情報を日々キャッチ。彼を支えるスタッフたちはキャディをはじめ、みな学生時代にゴルファーとして鳴らした面々で、オフの練習中の“スパーリング相手”になる。

どんな日であっても真剣勝負の雰囲気が漂い、松山は1打でも負けでもすれば不機嫌になる。場所が由緒正しき名門コースであれ、手入れの行き届いていない草コースであれ、1ストロークに対する向き合い方はそう変わらない。「この前、河川敷のコースをこっそり回ったらオーバーパーだった……」と言う顔はどこかうれしそうで、本来はクラブとボールさえあれば、いくらかは幸せなのである。
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文=桂川洋一 編集=石橋俊澄

この記事は 「Forbes JAPAN No.088 2021年12月号(2021/10/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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