日本代表を力強く牽引し続ける森保と吉田麻也の絶妙な関係

Photo Hector Vivas - FIFA Getty images

2022年秋のカタール・ワールドカップ出場へ、日本代表がかつてない逆風にさらされている。4試合を終えたアジア最終予選で2勝2敗と出遅れ、6カ国で2枚の切符を争うグループBの4位に甘んじている。ファン、サポーターが抱く危機感は森保一監督の解任を求めるネット上の批判につながり、難敵オーストラリア代表に勝利しても収まる気配を見せない。

その渦中、33歳のキャプテン、DF吉田麻也(サンプドリア)は、代役の効かない存在感を示している。7大会連続7度目の本大会出場を目指し、指揮官を支え、現場のリーダーとして仲間たちをピッチの内外で鼓舞する。吉田追った。

担ぎたい監督


ある日、民放テレビで、上司に恵まれない職場環境を指す「上司ガチャ」が特集された。部下は上司を決められないという意味の造語だ。こんな言葉があるのかと驚きながら、日本サッカー協会を一つの企業に例えると、森保監督の上司像は、背中を介して組織を動かすリーダーシップの持ち主でもないし、記者会見で雄弁になるわけでも、ましてや試合の前後に大風呂敷を広げるわけでもない。選手たち(企業ならば部下たち)が現場で出す成果をじっと待つ慎重派と言えるだろう。上層部からは厚い信頼感を寄せられている。

他方、選手の思いはどうか。10月の代表活動期間中に吉田麻也がオンライン会見の中で発した言葉はとても印象的だ。それは、次回ワールドカップ出場をかけたアジア最終予選で出遅れ、ファン、サポーターから解任を求める声が集中していた時、指揮官へ抱く思いを問われた言葉だ。

「みこしを担ぎたいな、と思う監督であることは間違いないです」

10月6日、敵地でサウジアラビア代表とのアジア最終予選第3戦前日。森保監督を担ぎたい理由を吉田はこう語った。

「批判されない代表監督はいないと思うんですよ。ドイツでもブラジルでもスペインでも批判はあるし、もちろん森保監督は就任前から、そして今も批判される覚悟はあると思います」

バッシングの渦中にいた指揮官の心中を察しながら、さらにこんな言葉を紡いだ。

「僕もいろいろな監督とやってきましたけど、難しい方が多いです。そのなかでも本気で、選手ファーストで物事を考えてくれる監督は、僕のキャリアの中でも本当に少なかった。その数少ない一人が森保監督だと思っているので」

吉田の脳裏には、森保監督がとった若手期待の星である冨安健洋への配慮のことも含まれていた。

冨安は東京五輪の後、移籍期限最終日の8月末日にアーセナルへ移籍した。イタリアのボローニャからイングランドの名門へ、待望のステップアップを果たせる渦中にある冨安に、森保監督とJFCはアジア最終予選のための日本への帰国を免除している。この時、ヨーロッパに残っていなかったら、冨安は正式契約に不可欠なメディカルチェックを受けられず、アーセナル入りも間違いなく破談に終わっていた。

そして冨安を欠いた日本代表は、ホームでオマーン代表とのアジア最終予選初戦でまさかの黒星発進を喫してしまった。それまで一度も敗れていない中東の伏兵に敗れた衝撃は、すでに存在していた森保監督の資質に対する懐疑的な視線を、即時解任を求める批判に変えた。
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文=藤江直人

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