2020年12月、NTTはNTTドコモを完全子会社化し、それまでドコモ内部から輩出していた代表取締役社長にも、親会社となったNTT出身の井伊基之氏が就任するという大胆な起用を行った。
それは、海外子会社などを統合し、海外事業を「NTT」というグローバルブランドで再出発すると宣言した矢先のことだった。
そして今年10月25日、今度は22年1月をメドに、NTTコミュニケーションズ(コム)、NTTコムウェア(コムウェア)をドコモの子会社化にし、新ドコモとして事業領域拡大を発表した。
さらにドコモは動画配信会社であるNTTぷららを統合、加えてポータルサイトgooを運営するNTTレゾナントも完全子会社化しコンテンツ強化を図る。
NTTの再編は、時代の推移とともに、ほぼ日常的に行われてきたため、こうした一連の動きは物珍しいものではないという見方もある。
しかし、「電電公社」時代から通信を担う事業会社として営んできたNTTグループも、時代の趨勢により「通信会社」という枠に閉じこもっている状況ではなくなった……そんな危機感の現れと踏んでいる。
目に見える成果は手堅い事業のみ
ドコモの井伊社長は、「3社が培ってきたテクノロジーで、お客様、パートナーのみなさんとともにイノベーションを起こし、社会に大きな変化をもたらす、『あなたと世界を変えていく』が新しいドコモグループの挑戦。
モバイルからサービス、ソリューションまで事業領域を拡大し、新しい世界を創出していく。そのために、コムとコムウェアをドコモの子会社にした。3社が経営方針を統一し、機能を統合、より迅速な意思決定と機動的な事業運営を実現する。これによって、通信事業の構造改革を行い、法人事業とスマートライフ事業を拡大する」と語った。
井伊社長が強調する「あなたと世界を変えていく」は、今夏からドコモのコーポレートスローガンとなっており、ドコモが「通信だけの会社」から脱皮して行く意思表示だ。
しかし長年、「安定」が自慢だったドコモの気風が旗振りだけで変わって行くとは考えにくい。そこで宣言だけではなく、各関連会社を再編することで、社内外に「変えていく」の本気を示す狙いもあるだろう。
もともとドコモは、東京五輪を契機に「beyond 2020」を掲げ、20年の5G本格化や高速通信網を活用した新しい生活への変革をうたって来た。これを社内では「スマートライフ」と呼び、同名の部門も設立。
株主向けの事業計画の中でも、「スマートライフ事業」を柱に据え、通信以外の分野でもイノベーションを掲げ、対外的にもアピールに努めて来た。
だが、スマートライフ領域で目に見えた成果を残しているのは、「d払い」また「dカード」など手堅いファイナンス事業のみ。とても未来を先取りした先進的な事業は育っていないのが実情だ。
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根強い、通信事業との比較癖
この要因は、ドル箱の「通信事業」と未知数の「新規事業」を無意識に天秤にかけてしまう既存概念の壁だ。