複雑性PTSDの原因には、「脳の容積も減る」ほどの虐待も
児童虐待──体罰やネグレクトが繰り返されると、子どもの発育に影響を及ぼす。それは、気分的なレベルだけでなく、脳の容積も減るという研究がある。
福井大子どものこころの発達研究センターの友田明美教授らによると、厳しい体罰をくり返し受けた4~15歳のグループでは、健康な子に比べ感情や思考をコントロールする前頭前野が14~19%小さくなっていた。
こうして、長期にわたり繰り返された虐待や拷問などトラウマ体験後に生じる症状などをもとにした診断基準が作られ、複雑性PTSDが採用された。特徴はPTSDの症状に加えて、複雑性PTSDに特有とされる、1. 感情調整の困難、2. 自分自身の価値の否定、3. 対人関係維持の困難──が挙げられる。
しかし、採用には専門家の間でさまざまな議論が交わされ、根拠となる学説も確定していない。原因として挙げられるのは虐待に限らず、眞子さまのような「誹謗中傷」も含まれるようだ。
とはいえ、臨床的には虐待経験を経て、複雑性PTSDと判断されうる病状と格闘する患者は少なくない。
30代の古井真々子さん(仮名)の場合
30代の古井真々子さん(仮名)。10代から過食嘔吐を繰り返してきた。
過食嘔吐を伴うタイプの摂食障害には虐待を伴うケースが少なくない。古井さんもその一人だ。
3人兄妹の真ん中。3歳上の兄は幼少時、酒浸りの父からよく殴られた。古井さんはその兄から殴られ、父からも暴言を吐かれながら育った。母は昼夜働いていて、一日じゅう家を空けることが多かった。
小学生の時に自殺騒ぎを起こした古井さんは、中学からシンナーやマリファナに手を出した。暴走族バイクの後部座席に乗り、走り回った。その後、過食嘔吐がストレス解消のファーストチョイスになっていった。
当院に通って7年。ようやく最近は自分自身を振り返ることができるようになった。
「人生の半分を摂食(障害)とうつで過ごしてきたけど、今はちゃんと通院できて、主人とも巡り合えて、子どもも生まれて。親元から距離を置けたのがよかったかなあ。前は“親ガチャ”と思ったことあったけど、今は仕方ないなと」
眞子さまの結婚については「私もそうだったけど、この家に生まれたくて生まれたんじゃないという気持ちが強かったんじゃないかと。お相手の小室さんもそうだけど、この人じゃないと、という強い思いがあったのかなって。皇室抜けるためにもね」と述べた。
40代男性、今尾すぐるさん(仮名)の場合
当院にはほかにも複雑性PTSDと診断される人たちが通う。とくに40代男性、今尾すぐるさん(仮名)の生い立ちは生半可なものではない。
今尾さんは幼少時、親から繰り返される虐待で児童養護施設に入所。成人後に阪神大震災で被災し、その後働いたビル工事現場の11階から7階まで転落して、奇跡的に助かった。地震直後や落下直後の記憶は無い。
今尾さんは10年前、私が前任の精神科病院で診察した時、自分が誰だか分らなかった。救急車で運ばれた彼はただうろたえ、名前が言えず、どこにいるかも分からなかった。入院治療、といっても特効薬があるわけではない。時を味方に付ける長期戦を覚悟し、退院して落ち着いた今は生活保護を受けながら、ときおり激しい頭痛と自殺願望、そして「自分が自分でない感じ」を訴える。
こうした人たちと眞子さまが同じ診断をされることに疑問を呈する医師もいる。