眞子さま「複雑性PTSD」に精神科医が思うこと

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精神科医の和田秀樹氏は小室夫妻の結婚会見を受け、新聞に談話を寄せた。

「医師と宮内庁は『心因性の抑うつ状態』とか『適応障害』とすればいいのに、重い診断名を付けて世間の批判を封じようとしたのだろう」

いっぽうで、こういった病気は数字など客観的な指標がなく、臨床症状と経過から判断せざるを得ない面がある。同じく精神科医の香山リカ氏はこう語った。

「一見元気そうに見えても複雑性PTSDの診断と矛盾しない。社会的な場面ではきちんと振る舞えるため、傷を負った内面は見えづらい」

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池田勇人元首相、昭和天皇──著名人の病が「変装」された過去


新聞記者と精神科医の両方を経験した私がいえるとしたら、公人や著名人の病名発表は軽く“変装”されるのが定石だったという点だ。

ふるくは高度成長時代の池田勇人元首相。1964(昭和39)年に喉頭癌を患ったが、発表は前がん状態。これは昭和天皇の最期に関しても同じだった。膵頭十二指腸乳頭部癌が正式病名で、発表当時は慢性膵炎だった。当時は癌に関する本人への告知が一般的ではなかった。

しかし、癌以外でも事情は同じだった。田中角栄元首相の権勢を止めたのが病気。1985(昭和60)年に倒れた時の発表病名はRIND(可逆性虚血性神経障害)。しかし実際は血栓が左大脳半球を養う血管に詰まり、広範な脳梗塞が起きていた。当時、田中番で病院に張り付いていた私は、RINDの意味などまるで分からないまま極秘退院のスクープ記事を書いた。

平成以降、情報化社会は急進展し、いまやインターネットを通して地球の裏側の事情が瞬時にわかる。公人の病名発表にしても昭和時代とは違い、隠し通せるものでもない。

そのなかで思うのは、眞子さまと小室さんの病名発表を素直に受け取り、「複雑性PTSD」の治療に関しても何らかの形で公になればということだ。結婚で私人となる眞子さまのプライバシー尊重は大前提としても、そのほうが今回の病名公表を活かすことになると思う。

その理由は虐待の報告件数が右肩上がりの中、複雑性PTSD患者が増えていくと思われるからだ。ことは皇族や著名人に限らない。SNSで誰もが情報の発信源となり、誰もが見られる側に立つ機会は今後ますます増える。

SNSで誹謗中傷されて自殺したプロレスラー木村花さんのように、デマや悪口で傷ついて自ら人生に終止符を打ったアイドルの母親がPTSDで当院に通う。その治療は難渋し、年単位の時間がかかるのが普通なので、眞子さまのトラウマがよくなったというニュースを聞けば、患者たちにとって励みになるはずだ。

ことし没後40年の向田邦子氏はエッセイでこう書いた。

「人は親や環境を選んで生れてくることは出来ない。どうにか自分で選べるのは就職と配偶者である」(「霊長類ヒト科動物図鑑」)

令和の時代、配偶者は「親ガチャ」で、就職は「上司ガチャ」で思い通りにはいかない。その中で父親である秋篠宮から「国民に納得のいく説明をして祝福された上で」を求められたことは眞子さまにとっての「親ガチャ」かもしれないと思いつつ、それでも相思相愛のままゴールインしたことを時代の「象徴」として迎え入れるべきなのかもしれない。

連載:記者のち精神科医が照らす「心/身」の境界
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文=小出将則

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