また、資産運用の商品取引の提案をするにしても、売買手数料をもらうのではなく、顧客からの預かり資産の規模に応じて一定の手数料をもらう「フィー型の報酬体系」も整備していく必要がある。これは、営業員が短期的な売買提案でなく、中長期的な顧客の資産形成に対してコミットするものであり、顧客と営業員が中長期的な資産の拡大という目的を共有することができる。
日本でも徐々に提供が進んでいるが、営業員はこれまで蓄積してこなかった顧客の中長期的な資産形成をサポートするための知識やノウハウを身に着ける必要があり、営業員の教育・スキル向上、評価制度の改革、顧客への長期担当制の導入など、人材育成施策の抜本的な改革が不可欠と考えている。
さらに、全方位型のウェルスマネジメントを実現するためには、これまでの営業員任せの営業スタイルを脱し、多岐にわたるアドバイス、サービス提案について一定の品質を会社として担保していく仕組みが必要となる。そのためには、営業員のアドバイスを後押しするITプラットフォームの整備が求められる。この点については、海外のウェルスマネジメントのプレイヤーが先行しており、日本の金融機関としても参考にすべき点が数多く存在する。
図表4は、2013年から2020年にかけての、米モルガン・スタンレーの収益構造の変化を図式化している。同期間において、残高連動フィーを中心とした資産管理収益や投資家へのローン貸出からもたらされる金利収益が大きく伸びた結果、売買手数料から構成されるトランザクション収益の減少をカバーしただけでなく、ウェルスマネジメント部門全体として34%の大幅な増収を達成している。
まさに、売買手数料が減少していくことを見越して、数年がかりで投資家へのローン貸出や、フィー型商品の提案、資産・事業承継アドバイスの強化などを強力に推進した結果と言えるだろう。
【図表4】米モルガン・スタンレーの収益構成の変遷
●米モルガン・スタンレー事業部門別売り上げ推移
(単位:10億ドル)●米モルガン・スタンレーウェルスマネジメント部門のサービス別売り上げ推移
(単位:10億ドル)出典:モルガン・スタンレーの決算資料より、アクセンチュア作成
デジタルの活用が、変革の成否を分ける
上記のように、中長期的な目線での顧客本位の営業スタイルを実現することと併せてサービスの多様化および収益の拡大を推進していくためには、営業員が徹底した顧客目線に基づきバランスシートで資産を捉え、従来の特定の商品に偏重してきたやり方ではなく、顧客の状況や目標を踏まえた多岐にわたるアドバイスを提供していく必要がある。
個々の営業員のスキル向上に任せていたのではスピード感のある変革につながらない上に、どうしてもアドバイスの品質にばらつきが出てしまう。そのため、デジタルを活用してアドバイスの品質を大きく底上げすることが急務となる。