ビジネス

2021.12.06

金融アドバイスは欲しいが、受けない。根深い投資の壁の壊し方

ウェルスは顧客も金融機関も発想の転換が最初の一歩/photo by Shutterstock .com


変革のカギを握るのは、「全方位型のウェルスマネジメント」


顧客本位の営業スタイルと金融機関の収益は両立できないのだろうか。私は両立させる手段があると考えている。そこでカギを握るのが、「全方位型のウェルスマネジメント」である。端的に言えば、顧客の資産をバランスシートで捉え、単発の投資商品の取引に限らず提供サービスを多様化することによって、顧客の幅広いニーズへの対応を可能にすることである。

顧客は本来的に、個別株式や債券などの単発の商品取引以外にも多くの金融および非金融ニーズを持っているが、金融機関はこれまで、効果的に対応できて来なかった。私はここに顧客の満たされない要求があり、金融機関にとってのビジネスチャンスがあると見ている。

図表3を見てほしい。これは典型的な富裕層の資産と負債の状況をバランスシート形式で図式化したものである。これまで、銀行や証券会社の多くは、金融資産に対してのみサービスを提供してきた。しかし、顧客は他にも、保険、不動産、借入、事業・資産承継など多岐にわたるニーズを持っている。

金融資産に対する商品提案は「点」としてのサービス提供であるが、本来求められるのは個人のバランスシート全体を理解した上で「面」としてのアドバイスおよび提案である。これが全方位型のウェルスマネジメントの目指すものだ。

【図表3】顧客のバランスシートと潜在ニーズ
顧客のバランスシートと潜在ニーズ

出典:アクセンチュア

具体的には、保有している株式(特に流動性の低い自社株など)を担保にしたローン貸出や、信託銀行を通じた不動産の紹介・取引、保険を含めたファミリー全体の資産承継対策などが考えられるだろう。特に株式担保ローンや不動産取引は、日本の顧客のニーズが高い領域ではあるが、金融機関が十分なサービスを提供できていない領域である。

これは、資産運用の提案を行っているのが主に証券会社なのに対して、株式担保ローンは銀行、不動産取引は信託銀行が所管となるなど、たとえ同じフィナンシャルグループでも会社をまたぐケースが多いのが主な原因となっている。顧客目線での全方位型のウェルスマネジメントを考えるのであれば、銀行、証券会社といった各社の収益だけでなく、フィナンシャルグループ全体としてのサービス提供および収益を考える必要がある。

日本は言わずと知れた高齢化社会であり、今後、資産・事業の承継、それに伴う不動産取引などは必然的に拡大することが見込まれている。一方で、冒頭で述べたように、資産運用の商品取引は手数料および売買頻度の低下の両面から収益性が悪化する見通しであり、金融機関にとって全方位型のウェルスマネジメントの実現は待ったなしの変革テーマだろう。
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文=武藤惣一郎(アクセンチュア)

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