しかし注目すべきは、アドバイスを求めている顧客のうち、富裕層(本調査では、「世帯総資産3億円以上もしくは世帯金融資産1億円以上」と定義)はそのうち41.9%、マスアフエント層(「世帯総資産1億円以上もしくは世帯金融資産5000万円以上のうち、上記「富裕層」に該当しない個人」と定義)は53.3%が、アドバイスを受けていないという実態だ。
アドバイスを潜在的に求めていても半数程度は実際にはアドバイスを受けていないということである。この事実は、一体何によって引き起こされているのであろうか。
図表2を見てほしい。ここでは、アドバイスを求めているにもかかわらず、アドバイスを受けていない理由を聞いているが、多くの回答者は、「気軽に相談できればよいのだが、相談することが面倒に感じる」、もしくは「自分のことを考えてくれず、金融機関都合のセールスを受ける不安がある」を選択している。
この背景には、これまでの金融機関の担当者には大きな営業ノルマが課されているため、時間をかけて顧客との信頼関係を構築し顧客ニーズを踏まえた提案を行うのではなく、売りやすい商品や売らなければいけない商品を販売していくスタンスが営業現場で展開されてきた実態がある。これが、投資家の金融機関に対する不信感を醸成しており、日本人の投資を躊躇させている大きな原因になっていると見ている。
【図表2】アドバイスを受けていない理由
Q:なぜ金融機関からアドバイスを受けたいと考えながら、実際にはアドバイスを受けていないのですか
(対象:世帯総資産1億円以上または世帯金融資産5千万円以上、金融機関からアドバイスを受けたいがアドバイスを受けていない人、n=637、複数回答可)出典:アクセンチュア
金融機関にとって、収益低下ほど怖いものはない
近年、国内外でのフィデューシャリー・デューティー(顧客本位の業務運営)の強化の流れを受けて、こうした営業ノルマに突き動かされた営業の在り方は見直されつつある。ただし、金融機関には何十年もの間、厳しい営業ノルマによって会社としての収益と成長を実現してきた「成功体験」があるため、顧客目線に基づいた営業スタイルに急速に変革するのは容易ではない。
相当な痛みを伴うパラダイムシフトであり、金融機関各社が工夫を凝らして取り組みを進めているものの、まだ十分な成果に結びついてはいないのが実情と言える。ただ、顧客本位の営業スタイルが実現しない限り、日本人の投資に対する見方や姿勢が変わることは考えづらく、ウェルスマネジメント業界として不可避の取り組みであることは間違いないだろう。
これまで私が金融機関のエグゼクティブの皆さまと議論を重ねてきた中で、顧客目線での営業スタイルへの変革における大きな障害となっているのが、大幅な収益低下への懸念である。徹底的に顧客目線での営業をするのであれば、時間をかけて顧客との信頼関係を構築し、ニーズを十分に勘案した上でなるべく売買手数料の低い投資商品を提案し、中長期的に保有してもらうのが望ましいだろう。
しかし、これまでの営業スタイルに比して取引1回あたりの売買手数料は低減し、さらに取引の回数自体も減るため、これまでの収益規模は当然ながら維持できなくなる。その結果、営業員、店舗、本部要員などの縮小が想定される。これが、金融機関にとって最も受け入れがたい懸念となっている。