ティアは会員制で、約150ドルの年会費を払えば、同社のクリニックを利用できる。同社最初のクリニックは、2019年にニューヨーク市でオープンした。ティアのクリニックで働く医師や看護師は従業員なので、会員は、毎回チームから、例年の健康診断や、問題行動医療(behavioral health)的なサービス、鍼治療などを受ける。医療費は、保険会社に請求される仕組みだ。
患者は、アプリを使って自分の担当チームとチャットしたり、自身の健康記録や予約状況を確認したりできる。ティアは、医師や看護師向けにも、業務と臨床診断を支援するアプリを開発した。ウィッティに言わせれば、このアプリはプロジェクト管理ツール「Asana」やグーグルの生産性向上ツール「Google Workspace(旧称G Suite)」の医療版だ。バックエンドのソフトウェアを通して、医療チームの全員が共通理解を得られる。
「利用する」のでなく「参加する」
ティアの売上は、大半が対面診療とオンライン診療によるもので、会費は売上のほんの一部を占めるにすぎない。しかしウィッティは、会費の支払いはブランドとその体験にとってのカギだと話す。また、女性たちはティアを「利用する」のではなく、ティアに「参加する」という表現を好んで使う。
「ティアは、人間関係を土台にしたヘルスケア企業です。女性顧客を獲得し、生涯を通じてその関係を維持するビジネスなのです」と彼女は言う。
Forbesの30 UNDER 30のイベントに登壇したキャロリン・ウィッティ(2021年10月12日撮影、Getty Images)
Thresholdのマネージングディレクターで、ティアの取締役を務めるエミリー・メルトンは、若い企業に投資する立場にあると、「どう考えても投資すべきチャンスなのに、どういうわけか、自分以外にはそれが見えていない」ときがあると話す。「そうしたチャンスを目にしたら、すぐに投資します。なぜなら、そのギャップにこそ、今までにないほど大きな規模の成果とチャンスがあり、真に意義深い変化につながるからです」
メルトンにとって、今までにない最大のチャンスが女性の健康分野だ。そしてティアこそが、「女性の健康はニッチ市場などではない」ことの確たる証拠だという。
メルトンはこう語る。「メイクアップのスタートアップ、グロッシアーが十数億ドルもの評価額を得られることに、誰も疑問を抱きません。言うまでもなく、女性はメイクアップ商品をたくさん購入しますから。女性はヘルスケアも多く利用しますが、エスティローダー並みの医療ブランドは存在しません。であるなら、私たちがそうしたブランドを作り上げなくてはなりません」
自ら「医療システム」となり、治療を変える
ウィッティとヨストは、最初から医療をビジネスにしようと思っていたわけではなかった。2人は、コーネル大学の学部生時代に知り合った。卒業後、ウィッティはグーグルのマーケティングとブランディング部門で働き、ヨストはヘッジファンドに就職し、のちにデータ系スタートアップの製品管理に転職した。
ウィッティのPCOS発症をきっかけにして、彼女は仕事を辞めて、女性が健康について調べられるグーグル風の検索ツールを開発しようと決意した。女性たちが、誤った情報が飛び交う危険性があるオンラインフォーラムにのめり込むことなく、より良い選択を下せるよう、力になりたかったからだ。そうしたオンラインフォーラムなどの経験から、需要が膨大にあったとしても、情報をただ表示するだけでは不十分だと2人は考えた。
「情報の入り口になって、あとは、誰もが毛嫌いする医療システムへと送り出すわけにはいきませんでした。それでは女性を見捨てるようなものです」とウィッティは言う。「私たち自身が医療システムとなって、治療の提供方法を変える必要があります」