コロナ禍でホテル隔離も 選挙を支える「外交官の地味な仕事」

外交旅券(Abihatsira Issac / Shutterstock.com)


ところが、今回は新型コロナウイルスの問題があった。日本への帰国者は14日間の隔離が求められている。でも、それを待っていたら、投開票に間に合わない。外務省は厚生労働省と協議の末、バブル方式で、クーリエたちを成田空港近くのホテルに集めて隔離しながら、作業を行うことにした。クーリエたちは帰国すると、外務省が手配した車に乗せられてホテルに直行。そこで在外選挙室の職員にパウチを渡し、中身の投票用紙に漏れがないか確認する作業を行ったという。職員たちが2泊3日のホテル滞在中、唯一許された外出は、任地に戻るために必要なPCR検査を受けるときだけだったという。クーリエたちはホテルにある小さな売店やレストランを利用できたが、それ以外は自室で本を読んだり、事務作業をしたりして過ごしたそうだ。

ただ、ホテルでのプチ滞在すら許されなかったクーリエもいたという。日本は現在、インドやネパール、パキスタンなど22カ国・地域を「新型コロナウイルス変異株流行国・地域」に指定している。この22カ国・地域からの帰国者はまず、検疫所長の指定する場所で3日間の待機を求められる。このため、該当するクーリエは、成田空港近くのホテルには向かえず、指定された待機場所に向かう途中でパウチを在外選挙室員に渡す作業を強いられたとう。

また、任地に戻るクーリエのなかには、たまたま当該国に強制送還されることになった人の隣に座らされ、「監視役」を命じられた人もいたという。中南米地域などからのクーリエは片道、ほぼ丸一日かけての移動だから、弾丸ツアーさながらで苦労もひとしおだっただろう。日本の国政選挙ではまだ、電子投票が導入されていないので、当面の間、このクーリエによる投票用紙の運搬というお仕事は続くことになる。

外交官というと、映画や小説の世界では、華麗な外交交渉を行ったり、パーティーで他国の外交官と社交を繰り広げたりという場面によく出くわすが、こうした地味な仕事を黙々とこなしている人も大勢いる。その大半がノンキャリアと呼ばれる、本省では幹部に登用される機会が限られた外交官たちだ。「投票用紙の運搬」というお仕事は、投票の秘密を守り、民主主義を支えるという大切な意味を持っている。バカ高いワインを飲んで、社交辞令を繰り返すだけの外交よりも、よっぽど国に貢献しているというものだ。

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文=牧野愛博

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