コロナ禍でホテル隔離も 選挙を支える「外交官の地味な仕事」

外交旅券(Abihatsira Issac / Shutterstock.com)

10月31日、衆院選の投開票が行われた。この投開票よりも数日前、千葉県・成田空港近くのホテルに、世界の約90カ国から200人ほどの外交官が集まってきた。彼らは、在外投票のクーリエ(外交伝書使)。世界の在外公館で記入された衆院選の投票用紙を持って集まった人々だった。

海外に居住する場合、近くの在外公館に在留届を出すと、その3カ月後には在外選挙人証を申請できる。在外選挙人証を持っていれば、衆院選の場合、日本で最後に住んでいた場所か本籍地の選挙区と比例区に対し、それぞれ投票できるようになる。

外交官は、投票された用紙をパウチと呼ばれる外交行囊に入れて、日本に持参する。パウチはオレンジ色をした布製の袋で、「diplomatic pouch」といった表示がしてある。ウィーン条約に基づき、パウチはX線検査や開封を免除される特権がある。日本を含めた各国は通常、暗号通信を解読するためのキー(鍵)や、絶対の秘匿が求められる極秘文書などを入れて運ぶ。北朝鮮の場合、外交官がサイドビジネスのため、覚醒剤などのよからぬ品々も入れていたといううわさも聞く。

有権者による投票行動も、絶対に保護されるべき対象なので、パウチに入れて持ち運ぶ。ずっと昔、ある在外公館でパウチに入れる前の段階で、集めた投票用紙が紛失する事件が起きた。外務省は投票した有権者や選挙を管轄する総務省に平謝りしたそうだ。クーリエは基本的に2人1組で、肌身離さずに持ち歩く。昔、知り合いの外交官に「肌身離さず」の意味を聞くと、「航空機の機内預けなんてとんでもない。ずっと抱きかかえるということはなくても、基本的に前の座席の下に入れて、常に目を光らせてます。自分が金属探知機を通る場合などは、相方の外交官にパウチを預けて、絶対に他人には任せません」と話していた。

いつもの世なら、クーリエたちは成田や羽田の空港に到着すると、一瀉千里に霞が関の外務省を目指す。「トイレも食事も後回し、本省に直行せよ」と厳命されているからだ。投票用紙の入ったパウチを領事局在外選挙室に運び込めば、そこでお役御免になる。
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文=牧野愛博

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