今年、各分野に精通した専門家や業界オーソリティ、過去受賞者で構成されるアドバイザリーボードと編集部で審査を行い、アート部門の受賞者として選出されたのが、小林 颯だ。
小型プロジェクターを搭載した2台の自走式ロボットが、部屋の中を動きながら、映像を投影する作品「灯すための装置」。この作品の着想は、映像作家、小林颯の個人的な記憶が影響した。今回、小林を推薦した演出振付家のMIKIKOいわく、「見落としてしまいそうな当たり前の事柄や現象を、注意深く観察し、作品に昇華している」という彼が、映像制作を通じて目指すものとは。
──映像作家としての原体験は?
小学生のとき近所の駐車場で見た、映写機によるアニメ映画の上映です。あれは、イメージを「灯す」行為だったと。
いまはVRゴーグルやヘッドマウントディスプレイをかぶって、ひとりで鑑賞する精巧な映像も増えましたが、僕はもっと「生」の映像が見たい。精巧さとは真逆のブレやボケから感じられるのは、映像が「そこに本当にいる感覚」です。蝋燭の火を分かつように、それを誰とでも分けあえたら、と考えています。
──小林颯にとって「成功」とは。
怖い質問ですね(笑)。東京藝大からベルリン、という経歴から、ひとつのルートに乗っかっている感覚があります。それがすごく怖い。どんな仕事もそうかもしれませんが、これから先はどうなるのかまったくわからない。特に若いアーティストや映像作家は、助成金獲得やコンペティション出品などが中心の生き方なので、どうしても不安定にならざるをえません。「成功」に惑わされずにずっと作品をつくり続けることができればと思っています。
──10年前の自分にアドバイスをするなら。
中学生のときに見つけた、フランスの思想家、ヴォルテールの「人生は難破する船のようなもの。救命艇の中でも歌える気もちを忘れずに」という言葉が好きなのですが、その言葉を忘れずにいてほしいと伝えたいです。
こばやし・はやて◎1995年生まれ。ベルリン芸術大学大学院アートアンドメディア在籍。「灯すための装置」が第24回文化庁メディア芸術祭アート部門新人賞に選出。