ビジネス

2021.11.02

「モンハン化」で狩猟現場を変える 元デザイナーのジビエ産業改革

ファント代表 高野沙月


ハンターと飲食店を結ぶ


現在、Fantには約400人のハンターが登録をしており、活動記録や狩場情報、猟銃や罠など狩猟方法についてのコミュニケーションが行われている。

サービスの最大の特徴は、飲食店がジビエ肉を発注できることだ。現在、オーダーをやり取りするMVP(顧客に価値を提供できる最小限の機能だけを実装した製品)が、fantとは別で稼働している。

飲食店が必要な食材の仕入れ希望時期や予算を提示すると、対象となる動物の狩りを専門とするハンターに通知が届き、要望に沿って狩猟をするというサービスで、来年からFantに統合される計画である。

まさにモンスターハンターの“クエスト”を連想させる機能だ。

「飲食店のFant参加が増えることで、ジビエの流通体系を刷新できると考えています」と期待を込める。

高野は流通の課題解消にも挑む。

日本の法律では、ハンターがジビエ肉を飲食店に直接的に販売することは禁止されており、近隣の食肉加工施設に運び込み、買い取ってもらう必要がある。そのうえ、厚生労働省が定めたガイドラインで狩猟から施設に届けるまでのタイムリミットはわずか2時間と定められており、廃棄されるケースも多い。

全国には約660の食肉処理施設があるが、その多くは1、2名で運営する小規模事業者だ。食肉解体などの処理だけでなく、在庫管理や営業、受注、代金回収などに多くの雑務に追われている。

「ハンターはこれらの制限によって、近隣の食肉施設に持っていく以外にマネタイズの方法がありません。持ち運ぶ時間も施設側が処理できる数も限られているため、処理にかかるコストの比較検討も難しい。施設の提示額に従わざるをえず、高くついてしまいます。

飲食店にとっては、仕入れ値が高くなってしまうため、気軽にジビエ肉を発注できないんです。この全体的なアンマッチを解決することこそ、有害鳥獣問題とジビエの利用率増加を解決するエコシステムづくりに不可欠です」

Fantを通じて、すでに帯広市内や北広島市などの飲食店でジビエの流通が始まっており、「こんなに安く買えるのか」と驚きの声も挙がっているという。

「年内には、自社でも食肉加工施設をオープンする計画です。こちらは今後、全国の食肉加工処理施設にもプラットフォームに参加いただくため、成功事例を見せていくためのショーケースとして活用していきます。飲食店とハンターの間で直接的に営業、受発注、決済などが行えるFantの仕組みが上手く機能すれば、食肉加工施設も加工・処理だけに集中でき利益を上げやすくなるでしょう」

狩猟という“入口”だけでなく、販売など“出口”も含めた独自のエコシステムを生み出そうとしているFant。ポップなビジョンの裏では、ハンターカルチャーのみならず、ジビエ消費文化を根本的に変えていこうとする刺激的な起業家精神が煮えたぎっている。


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文=河鐘基(Forbes JAPAN オフィシャルコラムニスト) 編集=露原直人

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