しかしその時期に「急がないと」という気持ちが強くなる出来事がありました。創業初期に協力してくださった生産者さんが廃業してしまったんです。そこで「いまの時間軸では、貢献できるはずの人たちが辞めてしまう」ということに気づきました。
そのタイミングから、スピード感を持って事業を大きく伸ばす方向に舵を切りました。ライフタイムバリュー(LTV)や顧客獲得単価(CPA)といったエコノミクスもわかりやすく見えてきていたので「アクセルを踏んだら伸びる」という数字的な根拠をもとに、VCから資金調達をして今に至ります。
──最初のVCラウンドでは70社以上に断られたほど、苦労もされたとお聞きしました。
資金調達のプロセスはお金を集めるだけでなく、事業成長にも寄与すると思っています。おっしゃる通り、2億円調達のときにはたくさん断られて長い時間がかかったのですが、おかげで調達を始めた時と決まった時では事業計画の精度やKPI設定、戦略もガラッと変わっていました。
これは投資家から何度断られても、とにかく事業成長にプラスになる情報をもらって半歩でも前に進もうとし続けたからだと思っています。
──資金調達でも、第1話で起業家の素養として挙げられた「柔軟性」を発揮することが重要ということですね。
ここで1つ注意すべきと思っているのは、アドバイスを全て鵜呑みにしないことです。特に成功した人ほど、「自分がやってきたことが一番良い」と話す傾向があります。
最初からVC調達して成功した人は「VCから早く調達したほうがいい」と言うし、外部から資金調達しないで成功した人は「自己資金でやり切るべき」と言う。
したがって、話の真意や本質を見極め、自分がやりたいことと照らし合わせて聞き入れるべきかを判断する。「柔軟性」は持ちながらも、決してブレてはいけない軸は大切にすべきです。
例えば私の場合、「一次産業に貢献できるか」という軸があります。いかに派手に話題にされたり資金調達額でちやほやされようとも、長期的に業界に貢献できなければ満足できないのです。
なので創業期の頃に「スタートアップの割にゆっくりやっているね」とよく周りから言われましたが、決して動じないし焦りませんでした。周りの会社で資金調達額が大きいといった話題があっても気にしません。
必ずしも成長スピードが速いから良いわけではないし、資金調達も同様です。これはすべて、長く続けて一次産業に貢献するために、自分たちの目指す世界観に対してベストだと思う選択をしているからです。
いろんな人にアドバイスをもらうのは大切ですが、“隣の芝”は見ない。自分たちがやりたいことに最短距離の道が何なのか、本質を見極めることがすごく大事だと思います。