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2021.10.30

もしも山一證券の元金融マンがサッカークラブを運営したら

2021年5月30日、チャンピオンシップ(英2部)昇格プレーオフで、スウォンジー・シティに2-0で勝利。1部昇格が決定し喜びに沸き立つブレントフォードの面々。(Craig Ferguson/Lightrocket/Getty Images)


オーナーにとっては、移籍市場に突進し、選手の売却で得た資金を、新戦力の獲得に残らず注ぎ込みたいという誘惑は常にある。それに加えて、イングランドサッカーでは往々にして、そのクラブがいかに上手に金を使ったかではなく、どれだけの金を投じたかによって、野心の大きさが測られるのだ。

だが昇格を加速する即効薬を求めるかのようにスター選手や一流監督を招聘(しょうへい)し続ければ、クラブは混乱に陥る。例えばノッティンガム・フォレストのケースだ。過去5年間で5人の監督の首をすげ替え、その間に獲得した選手は69人にのぼる。ベルトコンベアに乗せられたように新戦力がやって来るため、一時は11人もの選手を一軍から追放することとなってしまった。

大金を投じて有名選手を獲得すれば、チームの浮沈は激しくなり、残留争いをするようにもなれば、プレイオフに翻弄されるようにもなる。長期的なトレンドに一貫性がなくなるのだ。


2021年5月30日、ブレントフォード対スウォンジー・シティのスカイベット選手権プレイオフ決勝戦。

ブレントフォードでは誰もがプロセスを信頼し、ファンから選手に至るまでが常に大局を重視している。それを貫くのは簡単なことではない。ブレントフォードはすんでのところでプレミアシップ昇格を逃すという悲痛な経験を何度か経てきた。昨シーズンのプレイオフ決勝でライバルのフルハムに敗れたのは、その最たるものだ。

こういう場合、抜本的な改革を取りがちだが、ベンハムは基礎的な指標を信頼し、段階的に改善させることが、好結果を生み出すことを理解している。そのアプローチが世界最大級のステージでブレントフォードをどこまで導くのかを、私たちは見届けなければならないだろう。


ブレントフォードFC◎1889年創設、本拠地はウエストロンドンのブレントフォード。愛称はThe Bees(ハチ)。現在、イングランドの1部リーグであるプレミアリーグに所属。監督はトーマス・フランク。

マシュー・ベンハム◎オックスフォード大学物理学学士。英国のサッカークラブ・ブレントフォードのほかに、デンマークのFCミッティランのオーナー。スポーツ賭博関連の会社2社を経営。秘密主義で知られ、そのプロフィールは謎に満ちている。

文=ザック・ガーナー=パーキス 写真=キャサリン・アイヴィル 翻訳=町田敦夫 編集=石橋俊澄

この記事は 「Forbes JAPAN No.085 2021年9月号(2021/7/26発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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