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2021.10.30 17:00

もしも山一證券の元金融マンがサッカークラブを運営したら

2021年5月30日、チャンピオンシップ(英2部)昇格プレーオフで、スウォンジー・シティに2-0で勝利。1部昇格が決定し喜びに沸き立つブレントフォードの面々。(Craig Ferguson/Lightrocket/Getty Images)

2021年5月30日、チャンピオンシップ(英2部)昇格プレーオフで、スウォンジー・シティに2-0で勝利。1部昇格が決定し喜びに沸き立つブレントフォードの面々。(Craig Ferguson/Lightrocket/Getty Images)

今から約10年前、ウエストロンドンのサッカークラブ・ブレントフォードが買収された。それからというもの、クラブは飛躍的な躍進を遂げる。オーナーとなったのはマシュー・ベンハム。山一證券でキャリアをスタートした人物だった。謎に満ちた彼の運営手法とは──。


ウエストロンドンにあるサッカークラブ、ブレントフォードFCはローカルなチームである。ファンの数も知れたもので、地元のすべてのファンを集めても、チャンピオンシップ(イングランドの2部リーグに相当)のライバルクラブであるバーミンガム・シティ、カーディフ・シティ、ダービーカウンティ……などの本拠地スタジアムに収まる程度の規模だ。

それでも近年、ブレントフォードはおおむねそうしたクラブを上回る成績を挙げてきた。しかも、より大きなファン層や豊かな歴史をもつライバルに負けない好結果を出したというだけではなく、わずかな予算でそれを達成してきたのだ。毎年、主力選手を売却しているにもかかわらず。

昨年惜しくも昇格を逃した後、ブレントフォードのスターたちは「競売」にかけられた。チームの得点王のオリー・ワトキンスと中盤の逸材サイード・ベンラーマは、合わせて7000万ドルでプレミアリーグのチームに移った。

2人の移籍は、新型コロナウイルスにたたられたクラブ財政のバランスを是正したり、新スタジアムのローンを払ったりする助けにはなったかもしれない。その半面、大方の見方からすると、今年昇格を勝ち取るチャンスはかなり薄れた。


1985年9月17日、グリフィンパークで開催されたイングランドリーグディビジョンでの試合。

ギャンブル会社開発の「モデル」


ところが経営陣は淡々と、2人のスターの移籍金の10分の1の金額でワトキンスの後釜のアイバン・トーニーを獲得し、ベンラーマの穴はほかの選手たちに埋めるように頼んだ。もちろん2人の選手が去る前にも、ブレントフォードはこの数年間で多くのタレントに別れを告げていた。

クラブを離れていったのはワトキンスのようなストライカーばかりではない。今では堂々たるプレミアリーグ選手となったディフェンダーのエズリ・コンサやジェームズ・ターコウスキーもまた、ブレントフォードから2000万ドルで移籍した選手たちだ。

チームの得点王を失えば、たいていのチームは苦しむことになる。それが4年連続となればなおさらだろう。だがブレントフォードにとって、選手の売却はプランの一環だ。このクラブはほかのクラブとはひと味違うのである。
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文=ザック・ガーナー=パーキス 写真=キャサリン・アイヴィル 翻訳=町田敦夫 編集=石橋俊澄

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