米中の地雷を踏まない3つの方法


米中二大国の摩擦は経済、安全保障の領域から、一段と根深い部分に及びつつあり、ほとんど宗教戦争のレベルになりかねない。

酸鼻を極めたカトリックとプロテスタントの争闘は、欧米人のどこかに記憶されている。時として姿を現す米国の頑迷な正義感の底流には、宗教的確信を行動原理とする文化的素地がある。

他方で、中国の宗教儀式は、先の共産党結党100周年イベントに如実に表れた。規模ばかり大きい、妙にスピリチュアルで不気味な行事にしか見えない。いよいよ、首尾一貫した共産党王朝の教義の下にまい進しようとしているかに見える。

日本は断じて、こんな米中の宗教戦争に巻き込まれてはならない。経済問題なら利害得失が見えやすいし、外交や安全保障なら権謀術数を凝らす手もある。だが、宗教戦争となると理屈ではどうにもならない。動かしがたい信念に異を唱えたらそれだけでけがをする。

中国ビジネスに長い友人たちによると、実は中国は言われるほどに難しい国ではないそうだ。要は、共産党批判をするな、それだけだ、という。問題は、日本にとって固有の領土問題を抱えるうえ、米国への気配りと世界的な人権重視の流れにどこまでコミットしなければならないか、である。

企業にとっての要点は、3つだ。まず、民間企業は自ら領土外交問題に触れないこと、第二は、欧米スタンダードについては、ギリギリまで日本の意思ではなく欧米の意思なので仕方がない、とシラを切ること、そして第三は、難しいことは日本政府に聞いてくれ、我々は商売だけに興味があると言い通すこと、である。

どの場合でも忘れてはならないことがある。それは日本人としての誇りと国益を胸に深く刻みこんでおくことだ。ビジネスと国益が両立しえなくなったときには、迷いなく国益を優先する、という矜持である。

過日の某グローバル企業の株主総会。同社は中国事業の比重が高い。今後中国戦略をいかに進めていくかという株主の質問に、トップは敢然と言い切った。「引き続き全力で中国市場の開拓を進める。だが、最後には日本国の方針に従う。それだけです」。


川村雄介◎一般社団法人 グローカル政策研究所 代表理事。1953年、神奈川県生まれ。長崎大学経済学部教授、大和総研副理事長を経て、現職。日本証券業協会特別顧問、南開大学客員教授、嵯峨美術大学客員教授などを兼務。

文=川村雄介

この記事は 「Forbes JAPAN No.085 2021年9月号(2021/7/26発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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