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妖怪経済草双紙

観客数制限下とはいえ、それなりに活気がある東京ドームであった。

試合終了後、密を避けるために制限退場が呼びかけられるが、平然と無視する観客の多いこと。隣席の紳士が独り言のように呟いた。「これならいまの日本人は中国人に負けないな」。多くの日本人の感覚だろう。

『吾輩は外交に処する政府と国民の態度行動を見て憂慮に堪えない。その一は、露骨なる領土侵略政策の敢行、その二は、軽薄なる挙国一致論である』。

いまの中国を評した発言と見まがうが、これは日本が日中戦争に没入していった時代に、日本政府と日本国民に対して向けられたものである。警句を発したのは石橋湛山だった。

尖閣問題は一向に好転しないし、香港や台湾への中国の強硬な姿勢は、わが国の危機感を募らせる。安全保障を自力でできる日本ではなく、頼るのは米国ばかり、となる。

そんななかの米中摩擦だ。戦後長らく米国こそ保護者であり兄貴分と信じて疑ってこなかった日本人にしてみれば、どちらの肩をもつかと迫られれば答えは決まっている。

ここで熟慮しなければならない点は、米中は似た者同士、という事実だ。

米国はトップの地位を脅かされると容赦のない対抗策に出る。古くは日米貿易摩擦や金融摩擦で、日本はかの国からretaliation(報復)! と何回どやされたことか。20世紀末、アジア通貨基金創設を唱える日本の構想を葬り去った国は、米国にほかならない。

加えて厄介なのが米国の正義感、ほとんど信仰に近い公正への思い込み、である。かつて、反共十字軍と呼ばれたほどだ。しかも、相手がアジアとなると、白人たちの通奏低音ともいえる黄禍論が顔を出す。

他方の中国には伝統的に国境の概念がないといわれる。戦前のいわゆる支那論の論客として鳴らした矢野仁一は、中国は元来「世界帝国」であり国民国家ではない、真の国境はない、と喝破した。3000年にわたる中華思想が中国の信条だ、というわけだ。

これまた一種の信仰なので、一帯一路であれ領土領海問題であれ、中国にとってはまったく違和感がない。欧米などの歴史の新参者につべこべ言われる筋合いではない。唐文化を咲かせているころ、欧州では蛮族が徘徊するばかりだったではないか。

文=川村雄介

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