物価上昇や供給不足、ホリデーシーズンを前に身構える米小売業界

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米国の小売業界は、厳しいホリデーシーズンの到来に身構えているようだ。2021年の当シーズンは、2008年から2009年にかけてのリーマン・ショックによる景気後退以降では最も予測がつかないものになるとみられている。

玩具メーカーのMGAエンターテインメント(MGA Entertainment)で最高経営責任者(CEO)を務めるアイザック・ラリアン(Isaac Larian)は先ごろブルームバーグに対し、「ありとあらゆる懸念要素が、すべて同時に現実化している」と述べ、危機感をあらわにした。

多くの小売企業にとって、このシーズンの売上目標を達成するうえで鍵を握るのは商品の確保だ。だが、商品を作る工場は、コロナ禍により閉鎖を余儀なくされるところが出ているほか、操業している場合でもその製造スケジュールは予定より大幅に遅れている。

完成した商品も、港の混雑によって陸揚げが遅れ、コンテナ内に留め置かれる状況が続いている。さらにその先の陸路で荷物を運ぶトレーラーも、トラックドライバー不足が深刻な問題だ。小売業者のウェブサイトでも、「在庫切れ」の表示が目立ち始めている。

一方で、経済の実態を伝えるデータは、エコノミストたちの見解から乖離し始めている。エコノミストたちはこれまで、現在は5%超に達している米国のインフレ率について、これほどの急激な上昇は一時的な逸脱にすぎず、パンデミックが終われば、すぐに勢いを失うだろうと主張していた。人々もこれまではこの見解をおおむね受け入れていた。だが、このパンデミックは一体いつ終わるのだろうか?

消費者動向の先行指数となるのが自動車燃料だ。これは、国民の誰もが日常的に購入する製品の一つだ。この1年、ガソリン価格は上昇傾向にあったが、最近になってさらに急騰し、1年前と比較して少なくとも5割は高くなっている。しかも、値上がりが収まる気配はまったくない。

コロナ疲れの消費者が今後をどう見ているかを知りたいのなら、ガソリン価格の不安定な動きは、それを的確に伝える指標になる。

もう一つの的確な指標は食品だ。こちらの価格もじわじわと上昇している。牛や豚、鶏などの肉類をはじめとする、食卓に欠かせない食品の値段が上がっており、一部の上昇率は2桁に達している。さらに、大半の家計にとって最大の出費である家賃も、10カ月という短期間のうちに、主要都市では15~25%上昇している。

パンデミックが始まってから、かなり長いあいだ、消費者は結構な額の現金を溜め込んでおり、これを使う日を今か今かと待ち望んでいる、という考え方が主流だった。だが、今はそれほどでもない。実際、米国の貯蓄率(収入に貯蓄が占める割合)は、コロナ対策の給付金が最初に交付された2020年4月には急激に高まったものの、現在ではコロナ前の水準に戻ったことが、米財務省による最新報告書で判明している。
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翻訳=長谷睦/ガリレオ

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