今年、各分野に精通した専門家や業界オーソリティ、過去受賞者で構成されるアドバイザリーボードと編集部で審査を行い、エンタテインメント部門の受賞者として選出されたのが、津久井五月だ。
WOTA 前田瑶介とTakram佐々木康裕が推薦したのは、SF作家・津久井五月。2084年、植物の生理機能を演算に応用する技術が生み出された未来の東京を描いた『コルヌトピア』でデビューした若きSF作家の視点がいま重要な理由とは? 東京大学でともに建築を学んだ元同級生でもある、津久井と前田が語り合った。
前田:環境問題を解決するために大事なのは、単に自然だけをとらえることではなく、テクノロジーや人間の生活を含めて、我々を取り巻く環境を総体としてとらえること。津久井さんはそうしたエコロジカルな視点をもって未来の都市を表現しているSF作家だと思いますし、それが今回津久井さんを推薦した理由ですね。
津久井:僕はデビュー作から、エコロジーや都市についてSFを書いているところがあるんです。大学院まで建築を学んでいたので、デザイン的な視点をもった人間が文芸に憧れながら小説を書くことで、結果的に文芸とデザインの世界をつなぐことができているのかもしれません。
前田:そうした津久井さんのバランスのとれた世界観は、これからの世の中に重要だと思うんです。もはや自然保護を訴えるだけでは、環境問題に取り組むために人を巻き込んでいけるとは思えない。文学的でありながら、テクノロジーや自然についても造詣の深い津久井さんのニュートラルなとらえ方が大事になってくる気がします。
津久井:確かに僕は、「純粋な状態にはたどり着けない」という前提で自然を書いている。自然が好きだなと思いつつ、僕自身は冒険家のように自然に入っていくことはできないし、純粋なものに憧れながらもそこから一歩引いちゃうところがあるんです。
ただ人新世といわれるいま、世界にはもはや純粋な自然は存在せず、どこかで人工的なものが入り込む。そうした「屈折したネイチャー」をSFなら書けるんだなと思っていますね。サイバーパンクは人間のネイチャーがテクノロジーに侵食された世界を描いてきたわけですが、自分もその系譜のなかで小説を書いているのだと思います。