今年、各分野に精通した専門家や業界オーソリティ、過去受賞者で構成されるアドバイザリーボードと編集部で審査を行い、アート部門の受賞者として選出されたのが、小野澤 峻だ。
小野澤峻が2019年、東京藝大卒展で発表した『Movement act』はネット上で話題となり、卒業買上作品(首席)となった。今回、小野澤を推薦した森美術館館長の片岡真実は、彼を「難解で複層的な観念と明快なコミュニケーションの双方が求められるグローバルな現代美術界で活躍できる逸材」と評す。
──美術作家を目指したきっかけは?
中学2年生でジャグリングを知り、大道芸部のある群馬県立前橋高校で部活動に打ち込みました。ジャグリングを表現ととらえ、多くの人を動かす仕掛けをつくり出せないかと考え、東京藝術大学へ。でも、何でもかんでもジャグリングとひもづけようとする自分に行き詰まってしまったんです。
そんなときに、まったく関連のない写真作品を撮影したところ、「ジャグラーの視点が表現されてる」と評価された。それからは、現象としてジャグリングを表現する手法を模索しています。
──作品で表現しようとしているのは?
『Movement act』は“ぶつからないボール”というとらわれ方をしたことが不本意でした。失敗しない作品はただの“装置”になってしまう。ジャグリングの醍醐味であるスリル感を「たまにぶつかる」ギミックで表現したのが、作品の肝でした。
21年の『演ずる造形』では、緊急事態宣言下のコントロールできない世界を受け入れ、衝突を繰り返しながら均衡を取り戻す様子を振り子で表現しました。今作で評価してもらったことで、やっと自分の興味を作品として着地させられた気がします。
──今後の展望は?
僕がジャグリングに引かれるのは、放物線や重力といった物理現象を考えることで地球と対峙できるから。身体だけで完結するジャグリングから美術に領域を広げることで宇宙の真理と向き合い、世界との対話を試みる。その探索はずっと続くし、年を取っても作品を作り続けると思います。
おのざわ・しゅん◎1996年群馬県生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術表現専攻修了。身体や深層意識にある根源的な好奇心を刺激する現象を追求している。