2014年の創業以来、順調に成長曲線を描いてきたように見える同社の歩みは、実はけっして順風満帆ではなかった。試行錯誤を繰り返すなかでの鹿島建設との出会い、そして共創がセーフィーのその後の方向性を決定づけた。両社の4人がこれまでの軌跡と映像がつくる未来について語り合った。
鹿島建設の要望で家庭用クラウドを現場仕様に改良
佐渡島隆平(以下、佐渡島):創業して最初にリリースした製品は、家庭向けのホームセキュリティカメラだったので、当時鹿島建設さんがそのカメラを活用されていると聞いたときは驚きました。
セーフィー代表取締役社長CEO 佐渡島隆平
國近京輔(以下、國近):建設現場と施工管理責任者のいる工事事務所は通常は離れています。現場で起きていることは現場で確認しなければならない。しかし、管理責任者が事務所と現場を何度も往復するのは大変です。カメラをあちらこちらにつければ事務所で現場の状況を判断できるので、移動時間を削減できるのではないかと考えていました。
2015年にその提案が通り、いくつかの大手カメラメーカーに話をもちかけたのですが、カメラが大きすぎたり、映像配信が安定しなかったりと、実証実験を行ってもなかなかうまくいきませんでした。
途方に暮れていたところ、日建リース工業株式会社さまからご提案いただいたのがセーフィーさんのカメラだったのです。実際に見てみるとイメージしていたものにかなり近かったので、天沼にすぐに現場に持っていかせました。
鹿島建設 デジタル推進室次長 國近京輔
天沼徹太郎(以下、天沼):問題なく使えたので、当時、社員が6人しかいないスタートアップが手がけている製品だとは知らず、すぐに大量に発注したことをよく覚えています。
鹿島建設 建築管理本部・建築企画部建築ITグループ課長代理 天沼徹太郎
國近:定点カメラは昔からありましたが、ネットワークケーブルを接続する必要があるので、設置位置を自在に動かすことができません。しかし、セーフィーさんのカメラは小さくて軽いし、電源さえあればLANケーブルが届かない場所にも移動できるというメリットがありました。ただし現場は風雨に晒される過酷な環境で、それに耐えうることが前提条件。
家庭用カメラをそのまま持ってきても使えないと思っていました。そうした要望を最初に伝えたら、リース会社が現場で使えるように、カメラと通信機器をセットしたケース入りのユニットを製作してくれたのが「現場DX」カメラの始まりでした。
佐渡島:僕たちが、最初に現場に出向いたきっかけは、鹿島建設さんから頂いたお問い合わせへの対応からでした。ただし、現場で独自にカスタマイズされたケース入りの家庭用カメラを見たときに、これが、製品の可能性を広げる「ブレークスルーとなるアイデア」だ!とピンときました。この時のひらめきが、その後の我々の目指す方向性を示してくれました。僕たちの市場はBtoBにこそあると確信できたのです。
鹿島建設さんからのお問い合わせは「ネットワークがつながらない」というものでしたが、これはカメラ本体の不具合ではなく、SIMカードの通信制限にひっかかっていたのでした。映像データをクラウドへアップロードするには、当時1日5GBが必要でしたが、通信会社のSIMは1日2GBまでという制限があったのです。
國近さんからは「どうしてもLTE回線を使いたい」とお話をいただき、プロバイダ企業にいる先輩に交渉をして、実現にこぎつけました。上り回線が使い放題のセーフィー専用のSIMを発行してもらい、ようやく製品として成立させることができたのです。実は、上り回線無制限のSIMの商品化は、日本では前例のないことでした。
國近:佐渡島さんの交流ネットワークの広さにはいつも驚かされます。当時は佐渡島さんも現場に頻繁に足を運んでくれて、結構お会いしていましたね。私も現場で確認するタイプなので。
小室秀明(以下、小室):現場に寄り添って課題を解決するのが我々のスタンスなのです。
セーフィー アライアンス戦略室室長 小室秀明
佐渡島:しかし、もともと家庭向けにつくったクラウドカメラだったので、建設現場の課題に対応しきれないことも多々ありました。電力が不安定な環境でも、問題なく使えるようにする必要性があるとか、真夏はカメラ本体が熱くなるため、熱対策が必要だといったことを現場で確認させていただきました。最初は対処療法的に改良を重ねていましたが、課題をひとつひとつクリアし、最終的にLTE搭載クラウド型ネットワークカメラ「Safie GO(セーフィー ゴー)」が完成しました。
セーフィーでは、高画質の映像データをクラウドに保管します。携帯電話の通信を使ってクラウドに映像を送るには、本音を言うと、供給者側としては、データ量を減らしたい。
通信量を抑えるため、フレームレートを落とし、パラパラ漫画のような映像クオリティを提供する手段も考えたのですが、それだと現場の方が、細部まで確認することができません。それならば、データ量の圧縮にこだわるより、綺麗な映像を見ていただくことを優先しました。また、通信経路やクラウド自体も暗号化しており、BtoBでの利用におけるセキュリティ対策も万全でした。
大手にはない対応力で両社の関係を強化
天沼:Safie GOは、LTEルーターを搭載しており、コンセントを挿せばすぐに使えるというのが革命的でした。以前使用していた監視カメラは基本的に有線LANケーブルで接続して利用するものだったので、移動できませんし、現場のネットワーク(LAN)構築も大変でした。そうした手間が一切必要なく、電源さえ確保すれば複雑な初期設定なども必要ない。あっという間にセーフィーさんのカメラが社内の標準になりました。
佐渡島:ありがとうございます。その後、天沼さんや現場の方からもっとコンパクトで会話ができ、持ち運べる機種がほしいという声をいただき、「Safie Pocket(セーフィー ポケット)シリーズ」が誕生しました。
天沼:若い社員が現場で解決できないときに、電話で上司に指示を仰ぐことがありますが、言葉だけでは限界があります。映像があれば現場の状況を伝えられる、細部が撮影できるウェアラブルカメラがあれば、さらに役立つという声があったのです。
佐渡島:実験的にWi-Fiルーターとモバイルバッテリー、カメラをそれぞれ装着する状態で度使っていただきました。そのようなテストと開発を繰り返し、バッテリー内蔵のオールインワン型に改良した製品が「Safie Pocket2(セーフィー ポケットツー)」です。おふたりのフィルターを通して、リアルな声を集めていただき、製品の改良が実現しました。
映像から“街”の未来をつくる
國近:鹿島建設では18年に「鹿島スマート生産ビジョン」を策定し、「作業の半分はロボットと」「管理の半分は遠隔で」「すべてのプロセスをデジタルに」の3点に取り組んでいます。セーフィーさんとの取り組みもあって、後者のふたつはかなり進んでいると感じています。
当社は東京証券取引所と経済産業省が選ぶ「DX銘柄2020」にも選出いただき、セーフィーさんとも共創しながら、さらに上の段階のDX実現を目指しています。
天沼:当社には独自に開発したリアルタイム現場管理システム「3D K-Field」があります。コンピューター上に現実と同じ建物の3Dモデル(BIMモデル)を再現し、セーフィーのカメラ映像を紐付けたり、ビーコンを装着した現場作業員の位置情報を取得したりすることで、現在どこにその人がいるかわかるような、新しい形の施工管理システムです。今後はそのシステムにさまざまな映像の技術を融合させ、より高いレベルでの遠隔管理を実現していきたいと考えています。
佐渡島:3Dデータ内に最新の映像を紐付け、位置情報と連携することができれば、Googleストリートビューの建設現場版ソリューションをリアルタイムで実現できますね。
天沼:現場ではいかに事故を起こさずに工事を完遂するかが大命題です。今期はそこにフォーカスし、画像認識を用いた仕組みの構築に取り組んでいます。来期以降は、工程管理や検査の省人化といった、生産性向上に舵を切っていきます。
小室:我々には建設業界はもちろん、飲食・小売業界のお客様もいらっしゃいます。そうした業界では、店舗にカメラを設置することで防犯をはじめとして、遠隔での臨店業務実現や、オペレーション改善といった課題解決をしています。人の動きを定量化して分析するサービスは、建設業界にも転用できます。現場監督の指示の出し方や現場の人の動き方を映像とテクノロジーの力で良くすることができれば、生産性も向上するはずです。
佐渡島:鹿島建設さんのお話を聞いていると、ぜひ一緒に向き合いたい課題がたくさんあります。我々のソリューションも組み合わせていただき、スマート生産を実現し、建設現場のDX実現に貢献していきたいと考えています。逆に鹿島建設さんが、我々に期待していただいていることはありますでしょうか。
國近 我々は建物を建てて終わりではなく、人やモノ、コトも含めた“空間”を管理する会社だと考えています。お客様が使う大切な建物ですから、時代や社会の変化に追随して長く利用できるようにすべきですし、一緒に伴走したいと考えています。ただ自社だけですべてを行うのは難しいので、セーフィーさんとやっていきたいという思いがあります。
例えば、3D K-Fieldのような建物を可視化できるソフトウェアをお客様にご提供し、セーフィーさんのカメラが映す映像をいつでも見られるようにする。さらにAIやIoTを組み合わせ、人、モノ、コトの情報を「見える化」するのです。その情報を、お客様が維持管理で活用できるようにする。そんなシステムを共に構築していきたいですね。
佐渡島:まさに我々の取り組んでいきたいことです。街づくりや建物が変化していく様子を、映像を通じてデータ化する。それは「映像から未来をつくる」ことであり、人々の意思決定をより良く変えることができます。現場管理だけでなく、その場所を利用する人たちや働く人たちがより良い環境で輝けるようにすることこそ、我々のビジョンです。
佐渡島隆平◎セーフィー代表取締役社長CEO。甲南大学在学中の1999年にDaigakunote.comを起業。2002年にソニーネットワークコミュニケーションズ入社。モーションポートレートを経て14年10月、森本数馬、下崎守朗と共にセーフィーを創業。
小室秀明◎横浜国立大学経営学部卒。フューチャーアーキテクト、リクルート、ナガセを経て2016年にセーフィーに入社。20年にアライアンス戦略室室長に就任し、各業界のトップ企業と「現場DX」プロジェクトを手がける。
國近京輔◎鹿島建設デジタル推進室次長。法政大学工学部建築学科卒業後の1998年に鹿島建設入社。東京、名古屋、北陸で建築現場施工管理に携わり、2011年から本社建築管理本部。21年より現職。
天沼徹太郎◎鹿島建設建築管理本部・建築企画部建築ITグループ課長代理。東京工業大学大学院修了後の2012年に鹿島建設入社。ITソリューション部情報基盤グループを経て21年より現職。