「イカゲーム」の歴史的ヒットを生んだ、ターゲティングとタイミングの妙

世界90カ国で視聴数第1位を記録した「イカゲーム」(Netflixシリーズ『イカゲーム』独占配信中)


韓国サイドのグローバル戦略と合致


「イカゲーム」が成功した2つ目の理由は、「配信されたタイミング」にあります。コロナ禍のパンデミックによって世界同時に人々の意識に変化が起こったことが影響しています。
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2021年10月に南フランスのカンヌで2年ぶりにリアル開催された世界最大級のコンテンツ流通マーケット「MIPCOM(ミップコム)」を現地取材した際、会場の至るところで「イカゲーム」が話題に上り、世界で大ヒットした理由について言及する発言が多く聞かれました。

イギリスの独立系制作会社のプロデューサー、ポール・マッケンジー氏は、「イカゲーム」のヒットの理由を次のように分析していました。

「コロナパンデミックは、世界で起こっている出来事を私たちの身近に感じさせ、ユニーバサル化を一気に加速させました。世界は繋がっていることを改めて認識できたことで、韓国社会の一端も自分ごと化できた。これが『イカゲーム』の世界的なヒットに繋がっているのでないでしょうか」
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ともすれば「イカゲーム」は、コロナ禍以前であれば、人気作品の1つに過ぎなかったのかもしれません。パンデミックにより世界が身近に感じられるようになったいまだからこそ、格差社会や生活困窮者の現実を突き付けた「イカゲーム」が、より一層の反響を呼んだとも言えます。

イカゲーム
カラフルな通路で会場へ向かう参加者たちの列(Netflixシリーズ『イカゲーム』独占配信中)

最後の3つ目の理由は、韓国のエンターテインメント業界とNetflixは、コンテンツ製作においてWin-Winの関係にあるということです。グローバル展開で攻め続ける韓国のコンテンツ方針と、ローカルコンテンツに投資するNetflixの戦略が合致して、「イカゲーム」のような世界的な大ヒットが生まれたと言っても過言ではありません。

韓国エンタメのグローバル戦略は、世界の音楽シーンを席捲するBTSや、カンヌ国際映画祭とアカデミー賞のW受賞を果たした映画「パラサイト 半地下の家族」に象徴されています。音楽や映画の分野のみならず、ドラマやバラエティといった幅広いエンターテインメントコンテンツにおいても、世界的なヒット事例をつくり出し続けています。

Netflixがローカルコンテンツに投資し続ける効果については、先のMIPCOM会場でヒアリングを行ったところ、ロンドンを拠点にする制作会社Sensethefuture Pictures社のCEOであるテレサ・ポトツカ氏が次のようにコメントを寄せてくれました。

「Netflixがローカルコンテンツに投資し続けた影響は大きく、その結果、特定の地域で生まれたストーリーが一気に世界展開しやすい時代をつくり出しました。さまざまな言語の作品を字幕で視聴することを浸透させたことで、世界各国の俳優が出演する作品がグローバル展開されることは、もはや特別なことではなくなったわけです。ローカルコンテンツに対する概念はダイナミックに変化しています」

今際の国のアリス
「今際の国のアリス」の人気も高まっている (c)Haro Aso,Shogakukan / ROBOT

「イカゲーム」を観た世界の視聴者が、日本発のNetflixのドラマシリーズ「今際の国のアリス」を発見して視聴する傾向が高まっていることもローカルコンテンツのグローバル化に対するハードルが下がったことを物語っています。「イカゲーム」の大ヒットによって、「今際の国のアリス」は50カ国以上で再び視聴数でトップ10入りを果たしています。

以上の3つの理由から導き出されるのは、「イカゲーム」の世界的な大ヒットは、映像の配信サービスという時代がもたらした当然の帰結ともいうべき現象なのかもしれません。今後も、世界各国から時代にフィットしたローカルストーリーが誕生する可能性は大きいでしょう。正の波及効果が発生した事実を見つめることで、「イカゲーム」ブームから学ぶべきものは多くあります。

連載:グローバル視点で覗きたいエンタメビジネスの今
過去記事はこちら>>

文=長谷川朋子 編集=松崎美和子

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