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株式会社シナモン代表取締役社長CEO 平野未来

ビジネスの課題に対して人工知能(AI)を用いたソリューションを提供するシナモンAI。その代表・平野未来は、起業家でもあり開発技術者でもある。彼女は大学時代の2006年に、自ら開発したプログラムを引っ提げて起業する。その後会社を売却し、2012年にシンガポールにて、2社目となるシナモンAIを創業した。AIの技術で、作業のムダや機会損失が少ない社会を目指す彼女に、Forbes JAPAN WOMEN AWARD2021ヘレナ ルビンスタイン特別賞が贈られた。

化粧品ブランド、ヘレナ ルビンスタインは1902年に創設されて以来、革新的で優れた名品を世に送り続けてきた。今回のアワードでは、創始者マダム ヘレナ ルビンスタインのアントレプレナーシップを引き継ぎ、「社会が良くなるための未来を切り開く女性を心から応援したい」との思いで、大胆で力強く、途切れないエネルギーで挑み続ける平野に賞を贈ったという。起業家として技術者として邁進する平野に話を聞いた。


—女性の技術者の連続起業家として注目を集め続けています。なぜ、起業家の道を選んだのでしょうか。

起業家の道を歩むきっかけとなったのは、私が高校時代に寝食を忘れるほどインターネットの世界に夢中になったことです。高校卒業後に大学で情報科学を専攻し、プログラミングを学ぶうちに、自分もつくる側、すなわちサービスを提供する側に立てると気づいたことが大きな転換点でした。

その後、修士課程に進み、「複雑ネットワーク」という分野の研究をスタート。これは、グーグル検索のベースとなるアルゴリズムの技術で今では当たり前の技術ですが、WEB検索するだけで知りたい情報にリーチできるようになった。これは大きな変化でした。

同時に、インターネットに触れるにつれて、課題も見えてきました。その一つがWEB上の広告表示で、当時の私のブラウザの画面に高級車の広告が度々表示されていました。それを見たときに、「学生の私にこの広告を届けても意味がない。今後はきっとそれぞれに合った情報が表示されるようになる」と直感したんです。この体験がきっかけとなって、レコメンデーションエンジン(個人に合う情報を提供する技術)の開発に着手しました。

—平野さんが開発したソリューションは当時の経済産業省が行っていたIT人材発掘・育成事業の「未踏ソフトウェア創造事業」(独立行政法人・情報処理推進機構)に採択されます。最初の会社・ネイキットテクノロジーを立ち上げ、22歳のときに経営者としてのキャリアがスタートしました。女性起業家としての苦労や課題はありましたでしょうか。

起業家は「個人の資質」を見られますので、幸いなことに私が「女性」であるということでは苦労したことはありません。ただ、「起業家」としては迷走したこともありました。その最たるものが、創業時に私たちが3年かけて作ったプロダクトに対して、マーケットから反応がなかったことでしょうか。

私は経営者であると同時に技術者でもあるので、良くも悪くもなんでも自分ひとりで決断し、作ることができます。それゆえに私の感覚だけで「これはいいものになる」と判断して完成させたんですが、需要をきちんと把握していなくて。独断で「いいものを作ろう」と完成させても、売れないことがわかりました。このときにマーケティングの大切さを痛感しましたね。

このような回り道を経て、現在はマーケットを意識しながら開発を進めています。例えば異なる書式の書類の自動読み取りを行う『Flax Scanner』や、音声データを自動処理し、後続業務をカバーする『Rossa Voice』などは、雑務を減らす助けになっていると自負しています。

—今回の賞の名に冠した化粧品ブランドの創始者・ヘレナ ルビンスタインも革新的な女性です。1900年代のまだ閉塞的であった美容業界で、肌質をスキンケアに取り入れるといった、今では当たり前となっている肌タイプ別のスキンケアを提唱するなど新風をもたらしました。平野さんの革新的な視点から、現在の働く女性に対して、どう感じているか今の気持ちをお聞かせください。

私も含めて、皆さんパワフルに頑張っていると思います。ただ、自分にリミッター(制限)を設ける人は多いと感じています。同世代の女性と話していると、多くの人が「50歳までに〇〇をする」など、目標と未来の年齢とをセットで語っていらっしゃって。これは自分の可能性を制限してしまう考え方だとも思うんですよね。なぜなら、今の自分よりも、未来の自分の方が経験値も高く見識も広くなっているはずだから。夢はアップデートできるのに、今の自分が目標を限定的に考えることで、未来の自分に制限をかけてしまうようでもったいないですよね。

一方で、ビジネスにおいては数十年後を見据えた長期的な未来を想像しています。例えばIT技術の発展によりサービスが無料化されたり、単純作業が減ったり、作業時間が激減するなどが起こってきています。変化を重ね合わせて、グローバルトレンドの切り口から事象を考察すると、大局観ともいうべきものがわかってくるように思います。

—ビジネスシーンで女性は未だ少数派で、スタートアップの経営層では女性の割合はたった5%だという話もあります。働くことに悩んでいる女性も多いですよね。

難しい問題ですが、過去の誰かが決めたルールや常識に自分を合わせようとするから、不要な悩みも生まれてしまうのではないでしょうか。私は、もっと自分の衝動を大切にしたほうがいいと思っています。悩んだ時こそ論理的思考を捨て、正解を求めずに動くということですね。人が決めたルールや常識を取り払えば、自分をもっとアップデートしていけるのではないでしょうか。

大切なのは、今現在の最大限の夢を見ること。すると、自分がやりたいことやすべきこともわかってくるように思います。



100年200年後の世界を見据え、AI技術でサスティナビリティを追求


—Forbes JAPAN WOMEN AWARD2021受賞の際に、サスティナビリティへの関心やミッションを考えているとお話されていました。

サスティナビリティについては、私が子どもを産んだことによりマインドが変わり、働き方も変えていかなくてはと思いました。そこから転じて、次世代のみならずその孫の世代、100年200年後の世界を考えて新しい未来を作るためには、今変わらねばならないという意識が芽生えたんです。環境問題などの取り組みは、もっとスピードアップしていかねばという危機感があります。

具体的には、スーパーには大量のモノがあふれ、廃棄が発生しています。しかしここにAIを導入すれば、住人のデータからその嗜好とニーズに基づいて仕入れを行い、廃棄も減らせるはずなのです。

また、大量の廃棄が問題になっているファッション業界にも同じことが言えるでしょう。図らずも、コロナ禍で在庫廃棄のリスクが顕在化しました。これまでのように大量生産・大量消費ではなく、生産単位を小規模にした、臨機応変なサプライチェーン管理もAIを使えば可能ですよね。

AI技術により、サスティナビリティを追求することが、結果的に顧客と企業、そして地球全体にとっても利益につながっていきます。これが私たちのミッションだと感じています

—シナモンAIは、ハノイ、ホーチミン、台湾に支社があります。ダイバーシティやインクルージョンについて早くから実践されてきました。

異文化への理解は、「郷に入らば郷に従え」に尽きます。日本を含む東アジア地域は明確に伝えずに相手に解釈を委ねるという「行間を読む」文化があります。文化によってその尺度が異なるため、間違った解釈や誤解をされたまま、物事が進んでしまったことがありました。そんな経験を繰り返し、重視したのは、明確な説明をすること。そして、コミュニケーションはクリアにし、そこで誤解が生じたら発信者側の責任だと考えており、作業内容、目的、期限などをはっきりと伝えることがとても大切だと思います。

日本の女性の活動の場や機会を増やすことも、より重要になってきていると感じます。政府が行う国勢調査の結果を見ても、少子高齢化の進行により日本の生産年齢人口(15~64歳)は1995年をピークに減少の一途をたどっています。2019年は59.6%という過去最低をマークしましたよね。これからの社会で女性の活躍は必須なのに、その半分が活動していない現実を変えていきたいと思っています。

先ほど、異文化間の意思疎通について話しましたが、日本の男女間のコミュニケーションにも性差はあり、互いに意識を向けたほうがいいように思うことがありますね。男女間のコミュニケーションのトーンやマナーに差があることは多くの人が感じているはずです。そこに臆することなく、自分の意見を言い合えたり、明確に伝えたりすることで、互いの環境が変わって行くのではないでしょうか。特に家事や育児まですべてを引き受けてしまいがちな女性に、「明確に伝える」ことを意識してほしいと思います。

実業家として母として、いつもドーパミンが出るような楽しいことを考える


—平野さんは、膨大な知識と革新的な発想で多くのソリューションで世の中を変えています。その着想にはアウトプットとインプットが不可欠だと思います。多忙な中、どのようにしているのでしょうか。

まず、アウトプットからお話します。私は“常に夢を更新する”ということを意識しているからでしょうか。技術者として、やりたいことがどんどん出てきて、アウトプットすることが圧倒的に多いんですね。私は自分だけで考えるよりも、誰かと話をして思考を進めるのが得意なので、投資家の方や起業家の方と話すことでヒントを得て、そこからさまざまな開発を進めることが多いです。

インプットについては、「足りない」と感じることも多く、意図的にその機会を増やすようにしています。勉強会に参加したり、SNSで情報収集をして面白い取り組みをする人に連絡を取ってお話を伺うこともあります。好奇心と衝動がすべての原動力かもしれません。

—プライベートについてお伺いします。平野さんは多忙な毎日を過ごしながら、2児の母でもあります。どのように時間を管理しているのでしょうか。

子どもたちは保育園に行っているので、一度、仕事を切り上げてお迎えに行っています。そこから子どもが寝るまでは、子どもたちとの時間にすると決めています。この時間は仕事が気になってもなるべくスマホを見ないようにしています。限られた家庭での時間を大切にするために、家事の代行サービスを利用したり、時短家電を使うなど効率化を図っています。

—平野さんはいつも輝いていて美しいです。スキンケアなど美容の秘訣はありますか?

それが、あまり意識的には行っておらず、スキンケアは本当に基本的なことだけで、メイクも短時間です。ファンデーションも久しぶりに塗ったくらいで(笑)。強いて言うなら、ストレスがないこととかいつも楽しいことを考えていて、脳内物質のドーパミンが出ているからかもしれません(笑)。

あとは、自分の気持ちになるべく敏感になることですね。楽しい時間を増やすようにしたり、不快なことをされたり言われたりしたら「私は今、こういう気持ちですよ」と伝えるようにしています。苦手な仕事であれば、得意な方にお願いすることも多く、その分ストレスの総量は減りますよね。それが結果的に美容につながっているのかもしれません。

—平野さんとお話をしていると、世界が抱える課題が見えて、自分の夢を追いたくなります。他人の期待や社会のルールにとらわれることの無意味さに気付き、心が自由になります。

ありがとうございます。結局、自分の人生は自分のものだというだけですよね。己の感情を大切にすることで、道は開けていくのではないでしょうか。

—今後、平野はサスティナビリティを意識しつつ、AIの力で世の中の仕組み変えて行きたいと語る。常識にとらわれず、他人と比べず、自らの好奇心に従って進み続ける。その先に、AIと人間が共存し、多くの人がよく生き、よく働く未来が広がっているはずだ。


ひらの・みく◎シナモンAI代表取締役社長CEO。東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。レコメンデーションエンジン、複雑ネットワーク、クラスタリングなどの研究に従事。在学中の2006年にネイキッドテクノロジーを創業。2011年に同社をmixiに売却。2016年にAIエンジン開発を手がけるシナモンAIを設立。2020年、内閣府経済財政諮問会議専門委員、2021年、新しい資本主義会議 有識者構成員に就任。二児の母。



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*ヘレナ ルビンスタインにおいて


ヘレナ ルビンスタイン

https://www.helenarubinstein.jp/


Forbes JAPANでは、今年で5回目を迎える「Forbes JAPAN WOMEN AWARD」を2021年9月に開催。ヘレナ ルビンスタインは、プロフェッショナルを続々と輩出している企業と、自ら道を切り拓き自分らしく働く女性を讃えるこのアワードに協賛している。
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Promoted by ヘレナ ルビンスタイン / interview & text by 前川亜紀 / photographs by 尾藤能暢 / edit by 本間香奈

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