ベネディクトをはじめとする製作者側が監督として白羽の矢を立てたのがケヴィン・マクドナルドだった。実話を基にした作品が得意で、サスペンスづくりにも長けており、説得力と情熱に溢れた監督であるという理由からだった。政治的な思惑も絡む複雑な原作に対してケヴィン監督は次のように臨んだという。
「観る者が十分に理解できるようにシンプルにして、物語としても優れたものにし、サスペンス作品のようにするためにはどう語ればよいか。次に何が起きるのか知りたくて、じっとして座っていられないような、エキサイティングなストーリーにしたいと思った」
その監督の演出プランは、見事に作品で実を結んでいる。難しい問題も秘めた実話を基にした作品であるにもかかわらず、堅苦しさなどはなく、エンターテイメントとしても優れたものとなっており、冒頭から最後までかたときも目が離せない。
モハメドゥの弁護を担当するナンシー役を演ずるジョディ・フォスターの颯爽として堂々たる演技も見逃せない。
『モーリタニアン 黒塗りの記録』10月29日(金)、TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー 配給:キノフィルムズ(c)2020 EROS INTERNATIONAL, PLC. ALL RIGHTS RESERVED.
「ケヴィン・マグドナルドが監督すると聞いてワクワクした。この作品に必要な、真実味あふれるドキュメンタリーのトーンで取り組む人だから」と語るジョディは、脚本を持って行ったとき「このキャラクターはもっとタフにしないと」と監督に進言したという。
とはいえ、脚本づくりには細心の注意が払われている。登場人物たち本人から実際に話を聞き、徹底的にファクトチェックも行ったという。最終的に脚本を担当したローリー・ヘインズは次のように語る。
「大切なのは、題材に対して可能な限り忠実であること。モハメドゥの本に書かれていたことよりも深く掘り下げるために彼と話した。ナンシーともそうだった。歴史を徹底的に調べ、関係者だけでなく、映画を観る人たちもが真実だと感じられるストーリーをつくるよう努力した」
「モーリタニアン 黒塗りの記録」の冒頭に刻まれる「This is a true story」という力強い言葉の裏には、このような裏付けもあったからにちがいない。作品は、実話を基にした物語を見事にエンターテイメントにも昇華させている。
連載:シネマ未来鏡
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