同時多発テロ、不当な拘束と「真実」の証言。映画「モーリタニアン 黒塗りの記録」


カンバーバッチが映画化へと動く


実は筆者が「モーリタニアン 黒塗りの記録」という映画に興味を覚えたのは、その内容というよりも、監督がケヴィン・マクドナルドだったからだ。過去には「消されたヘッドライン」(2009年)や「ブラック・シー」(2014年)という彼の作品を観ていたが、いずれも最後まで倦きさせることのないスリリングな演出に感心を覚えていた。

ケヴィン・マクドナルドは、1967年、イギリスのグラスゴーの生まれ。祖父が映画監督で、兄もプロデューサーを務めるという映画一家の系譜を持つ。1999年に「ブラック・セプテンバー/五輪テロの真実」でアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞。

その後、ドキュメンタリー作品の監督としてキャリアを積み、「ラストキング・オブ・スコットランド」(2006年)で劇映画にも進出、主演のフォレスト・ウィテカーにアカデミー賞主演男優賞をもたらす。

「モーリタニアン 黒塗りの記録」でも、ドキュメンタリー作品のような手持ち撮影を多用した独特のタッチで臨場感あふれる映像をつくり出しているが、彼をこの作品に起用したのは、製作者側の「彼しかいない」という強い要望があったからだという。

そもそも「モーリタニアン 黒塗りの記録」は、2015年にイギリスで出版されたモハメドゥ・スラヒの「手記」が原作となっている。当時、まだモハメドゥがグアンタナモ収容所に拘禁中であったため、著書はアメリカ政府による検閲のために多くの部分が黒く塗りつぶされていた。

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その話題性も手伝ってか、著書は世界20カ国で刊行されるベストセラーとなり、この原作に感銘を受けて「これは映画化すべきだ」と動いたのが、作品でもスチュアート中佐を演じているベネディクト・カンバーバッチだった。

「本を手に取って、最初から最後まで読み通した。これほどの経験をくぐり抜けて、人間の精神の不屈の喜びについて僕たちに教えてくれていることに圧倒された。彼に完全に魅了されてしまった」

こう語るベネディクト・カンバーバッチは当初プロデューサーに専念するつもりだったというが、プロジェクトが進むうちに、どうしてもスチュアート中佐の役を自ら演じたくなったという。

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スチュアート・カウチ中佐演じる、ベネディクト・カンバーバッチ(c)2020 EROS INTERNATIONAL, PLC. ALL RIGHTS RESERVED.
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文=稲垣伸寿

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