同時多発テロ、不当な拘束と「真実」の証言。映画「モーリタニアン 黒塗りの記録」

アメリカ同時多発テロの首謀者とされた男性を巡る「真実の物語」(c)2020 EROS INTERNATIONAL, PLC. ALL RIGHTS RESERVED.


政府へ要求していたモハメドゥに関する調査資料がナンシーに届くが、ほとんどが黒く塗りつぶされており、そこには隠蔽のにおいも立ち込めていた。裁判のために完璧な準備しようとするスチュアート中佐にも中途半端な報告書しか与えられず、彼も戸惑いが隠せなかった。
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モハメドゥから届く予測不能な人間味あふれる手記に引き込まれていくナンシーだったが、再三の請求によってようやく届いた政府の機密文書には、同時多発テロに関する驚くべき彼の「証言」が記されていたのだった。

「モーリタニアン 黒塗りの記録」の背景には、2001年の同時多発テロ以降、アメリカ政府がキューバのグアンタナモ基地内に収容所を設置し、約780人を西アジアやアフリカから連行し、司法手続きなしに厳しい尋問や虐待、長期の拘束をしていたという実態があった。モハメドゥもその1人であった。

映画の舞台はアフリカのモーリタニアから始まり、ニューメキシコ州アルバカーキ、キューバのグアンタナモ、首都ワシントンを何度も入れ替わっていきながら、物語は弁護士のナンシーとアメリカ軍のスチュアート中佐の両サイドから「真実」へと迫っていく。
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監督であるケヴィン・マクドナルドの演出は、とにかく場面転換が絶妙で、小気味がよい。興味を繋ぎながら次のシーンへとテンポ良く移っていくので、観る者は立ち止まることなく、物語へと没入していく。またモハメドゥが書く手記とオーバーラップさせながら、彼のバックグラウンドが語られるようにもなっており、その「物語作法」は滑らかで不自然さがない。

後半からはいわゆる法の正義をめぐる法廷劇の様相を呈していくのだが、場面描写が巧みなために、ひとときも退屈することはない。かなり重厚なテーマを扱っているにもかかわらず、観る者をひきつけてやまない技巧は、この監督がこれまでずっと培ってきたものかもしれない。
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文=稲垣伸寿

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