最近、このような実際に起きた出来事を題材にした映画が増えていると感じる。それらが数多くつくられるのは、その「重み」を梃子にして、より多くの観客に訴求しようという製作者側の思惑も加わっているからであろう。
さらに観客の心を掴もうと、事実や実話に興味を引く脚色を施している作品も少なくなく、その是非をめぐって論争に発展したケースもいくつかあった。映画である限りは、脚色については否定する側にはないが、それでもあまりに都合よくつくられているのではと顔を顰める作品もある。
映画「モーリタニアン 黒塗りの記録」は、「This is a true story」というテロップとともに幕を開ける(日本語の字幕も「これは真実の物語である」と付けられている)。「Based on true events」でも「Inspired by true story」でもない、この力強い言葉に、作品を監督したケヴィン・マクドナルドの揺るぎない自信が現れているように感じられた。
テンポの良い絶妙な場面転換で物語に没入
「真実の物語」というのは、2001年のアメリカ同時多発テロの首謀者とされ14年間も不当に拘禁されたモーリタニア人男性をめぐり繰り広げられる「法の正義」への闘いだ。現実の当事者たちに綿密に取材して「真実」を紡ぎ出したという。
アフリカの北西部、モーリタニアに住むモハメドゥ・スラヒ(タハール・ラヒム)は、同時多発テロから2カ月後、突然連行されて、その後キューバにあるアメリカ軍のグアンタナモ基地の収容所へと移送される。
モハメドゥ・スラヒ演じる、タハール・ラヒム(c)2020 EROS INTERNATIONAL, PLC. ALL RIGHTS RESERVED.
アメリカのニューメキシコ州アルバカーキの弁護士事務所に所属するナンシー・ホランダー(ジョディ・フォスター)は、裁判が一度も開かれないまま拘束されているモハメドゥの存在を知り、プロボノとして彼の弁護を買って出る。
一方、アメリカ軍のスチュアート・カウチ中佐(ベネディクト・カンバーバッチ)は、モハメドゥを戦犯法廷で裁き死刑にせよという厳命を受ける。同時多発テロでハイジャックされた航空機には、彼の親友が副操縦士として乗り込んでいた。
ナンシーは、通訳兼アシスタントのテリー・ダンカン(シャイリーン・ウッドリー)とともにグアンタナモの収容所を訪れるが、ことのほか厳重な警備と足枷をされたモハメドゥの姿に驚きを隠せなかった。証言すれば危険が及ぶと真相を明らかにしないモハメドゥに、ナンシーは手記を書いて送るよう説得する。
ナンシー・ホランダー演じる、ジョディ・フォスター(c)2020 EROS INTERNATIONAL, PLC. ALL RIGHTS RESERVED.